想いと共に花と散る
 ゆっくりと動いた瞳は、土方から部屋の中で蹲っている雪の姿を捉える。
 目があった二人の間には、得も言われぬ沈黙が続いた。

「お前んとこの奴らが何が仕出かしたらしいじゃねぇか。場合によっちゃあ、責任はてめぇに問われるが」

 そこん所分かってんだろうなぁ、と続け、土方は雪を見つめる沖田を上から睨めつけた。
 鋭い視線を向けられても、沖田は意にも返さない。
 土方はそんな沖田の様子を見た後、柱に背を預け腕を組んだ。無理に急かすことをしない辺り、何も言わず見つめ合う様子のおかしい二人から何かを感じ取ったのだろう。

「……別に、理由なんてないですよ」

 ようやく口を開いた沖田は、バツが悪そうに雪から視線を逸らした。
 その視線は土方にも向けられず、空虚を見つめる。

「強いて言うなら……ムカついたから、ですかね」
「お前が感情で動くとは、珍しいこともあったもんだ」

 感情に振り回されることを何よりも嫌う沖田が感情的になった。それだけで只事ではないと土方は察する。
 夜中にも関わらず浅葱色の羽織を着たままでいる沖田が、腰に刀を携えていないことが今は不幸中の幸いであった。

「聞かせろ。今なら誰もお前を責めたりはしねぇ」

 一瞬土方に視線を向けた沖田は、すぐに逸らして再び夜空を見上げた。
 袖のだんだら模様を握り締め、小さくも確かな口調で言葉を紡ぐ。

「俺は、新撰組を仲間を選別する組織にはしたくない。そんな組織は、次第に脆くなって簡単に壊れる」

 背を向ける沖田の表情は見えない。何を思い、その言葉を口にしたのか雪には計り知れなかった。
 ただ一つ分かることは、静かに話を聞く土方の表情が微かに歪んだこと。
 些細な変化が沖田の心中を表していたのだと雪は痛感する。

「許せないんですよ、新撰組が“影で仲間を腐らせる場所になる”ことが」
「仲間を腐らせる……か」

 物騒な物言いの裏には、確かな怒りが含まれていた。
 沖田の怒りを感じ取った土方は決して彼を責めるでもなく、続く彼の言葉に静かに耳を傾ける。

「土方さん、俺は止めます。たとえ仲間であろうと、自分の隊の者だとしても」

 もう一度土方へと向けられた沖田の瞳には、確かな覚悟と怒りが宿っていた。
 土方はそんな沖田と目を合わせる。目の前にいるのは、かつての幼馴染ではなく一番隊組長であった。
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