想いと共に花と散る
 雪には、到底二人の話に入ることなどできやしない。
 新撰組副長と一番隊組長の間で繰り広げられる話は、隊士とは言え刀を握らない雪には理解すらも努力を要することなのだ。
 
「総司、お前は何処まで勘づいている」
「例の辻斬りと、新撰組(うち)の羽織を来た輩が暴れている話……。この二つは無関係ではないでしょうね」
「だろうな。となると、警戒を強めるしかない」

 辻斬りという単語が聞こえて雪ははっと息を呑んだ。
 見回り帰りに沖田が報告したため、土方にも小夜から聞いた辻斬りの話は共有されている。
 一見すると特別警戒するような話ではない。今の時代、辻斬りなど毎夜のように町を練り歩いているのだ。
 それでも土方達が警戒するのには理由がある。

「新撰組の中に辻斬りがいれば粛清するまで。問題は、不逞浪士が新撰組を名乗って悪行を働くことです」
「浪士が町で暴れれば、全ては俺達に回ってくる、か……」

 新撰組の中に裏切り者がいるとすれば、いつかは必ずボロが出る。
 そうなれば粛清という形で対処を取れる、と二人は考えているらしい。
 問題は、沖田の言うように名もなき不逞浪士が勝手に新撰組の名を使って悪事を働くこと。
 名を持たない不逞浪士の捜索を苦行を要することくらい雪にも分かる。
 彼らが懸念するのは、捜索をしている間に不逞浪士が罪を重ねること。そして、その罪を全て新撰組に負わせてくることだ。

「そうならないためにも、俺はいち早く辻斬りの正体を暴きたい。もちろん理想は、新撰組内にいないことですけどね」

 力なく笑い、沖田はただ懇願するように言った。
 そんな彼の想いは、一番隊組長としての責任なのか、一人の武士を志す者としての理念なのか。
 どれだけ考えても答えは見つけられなかった。

「……今すぐにでも出たいって顔してるな。だが、焦ったって空回りするだけだ」
「分かっています」
「だから、まずは幹部を揃えて話を付ける。これは新撰組全体の問題だ。状況に応じて、市中の見回りの振り分けを変えることも念頭に置いておけ」
「はい」

 もたれ掛かっていた柱から背を離し、土方は沖田に背を向ける。
 彼の背中を見つめていた沖田は、やがて縁側から立ち上がり庭に降り立った。
 振り返った彼の表情は決意に満ちている。ずっと蹲っていた雪が思わず膝立ちになって動こうとするほどであった。
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