想いと共に花と散る
辻斬り
屯所が前川邸へと移り、それまで離れで集団生活をしていた面々には個々の部屋が割り振られた。
と言っても一人部屋を持つのは主に幹部達で、平隊士は変わらず二人部屋など複数人で部屋を使用する。
中でも例外だったのは、土方の小姓である雪にも小さい小部屋を与えられたことであった。
「……今日は、私も参加するのかぁ………」
朝になったばかりの薄暗い部屋の中に独り言が溶けて消える。
昨晩、土方が宣言した通り、今日は朝から幹部が一同に介し会議が開かれることになっていた。
お題に上がるのは、近頃巷を騒がせている辻斬りに関することだ。
この議題に雪は無関係ではなく、実際に噂を聞いた立場として会議に参加する。
慣れた手つきで袴姿に着替えると、いつの日か土方に贈られた桜色の髪紐で長い黒髪を後ろで一つに束ねた。
「よし、行こう……」
壬生浪士組の時代から彼らと共に駆け抜けてきたが、今日まで会議というものには参加したことがなかった。
そんな雪の心の中には当然不安がある。沖田や藤堂など気を使わなくて済む間柄の者もいるが、今日はあくまでも幹部として集まっているのだ。
馴れ馴れしい態度で接するわけにはいかないのが現実である。
不安はあれど決まったことには従うしかない。落ち着かない身体を無理矢理落ち着かせるため、雪はまず厨で人数分の茶を入れてから会議が開かれる座敷へと向かうことにした。
「皆さん、おはようございます。雪です」
「入りなさい」
部屋の前で膝を付き、畏まった態度で声を掛けると中から近藤の穏やかな声が返ってきた。
その声を聞いて障子を開けた雪は、静かに中に入りすでに集まっている幹部達の前に用意した茶を置く。
一通り置き終えると、お盆を持ったまま土方の隣に腰を下ろす。雪が落ち着いたのを見計らって、近藤が切り出した。
「皆、朝早くからすまない。こうして集まってもらったのは、近頃報告が増えている辻斬りについてだ」
近藤の切り出しに幹部達の表情が強張る。近藤や土方だけでなく、彼らにも辻斬りの話は届いていたらしい。
誰もが知っていると言わんばかりの悠然とした態度を取る。焦りを見せるのは、雪一人であった。
話自体は全員に共有されているため、近藤は詳しいことまでは語らない。
ただ淡々と冷静な態度を崩さず、今後の方針を口にした。
「何も新撰組の中に裏切り者がいるらしい。そこで、こちらも手を打つことにした。山崎君」
「はい、こちらに」
その時、何処からともなく黒尽くめの男が近藤の目の前に姿を現した。
まるで忍びのような身の熟しと格好に、雪は呆気に取られる。
と言っても一人部屋を持つのは主に幹部達で、平隊士は変わらず二人部屋など複数人で部屋を使用する。
中でも例外だったのは、土方の小姓である雪にも小さい小部屋を与えられたことであった。
「……今日は、私も参加するのかぁ………」
朝になったばかりの薄暗い部屋の中に独り言が溶けて消える。
昨晩、土方が宣言した通り、今日は朝から幹部が一同に介し会議が開かれることになっていた。
お題に上がるのは、近頃巷を騒がせている辻斬りに関することだ。
この議題に雪は無関係ではなく、実際に噂を聞いた立場として会議に参加する。
慣れた手つきで袴姿に着替えると、いつの日か土方に贈られた桜色の髪紐で長い黒髪を後ろで一つに束ねた。
「よし、行こう……」
壬生浪士組の時代から彼らと共に駆け抜けてきたが、今日まで会議というものには参加したことがなかった。
そんな雪の心の中には当然不安がある。沖田や藤堂など気を使わなくて済む間柄の者もいるが、今日はあくまでも幹部として集まっているのだ。
馴れ馴れしい態度で接するわけにはいかないのが現実である。
不安はあれど決まったことには従うしかない。落ち着かない身体を無理矢理落ち着かせるため、雪はまず厨で人数分の茶を入れてから会議が開かれる座敷へと向かうことにした。
「皆さん、おはようございます。雪です」
「入りなさい」
部屋の前で膝を付き、畏まった態度で声を掛けると中から近藤の穏やかな声が返ってきた。
その声を聞いて障子を開けた雪は、静かに中に入りすでに集まっている幹部達の前に用意した茶を置く。
一通り置き終えると、お盆を持ったまま土方の隣に腰を下ろす。雪が落ち着いたのを見計らって、近藤が切り出した。
「皆、朝早くからすまない。こうして集まってもらったのは、近頃報告が増えている辻斬りについてだ」
近藤の切り出しに幹部達の表情が強張る。近藤や土方だけでなく、彼らにも辻斬りの話は届いていたらしい。
誰もが知っていると言わんばかりの悠然とした態度を取る。焦りを見せるのは、雪一人であった。
話自体は全員に共有されているため、近藤は詳しいことまでは語らない。
ただ淡々と冷静な態度を崩さず、今後の方針を口にした。
「何も新撰組の中に裏切り者がいるらしい。そこで、こちらも手を打つことにした。山崎君」
「はい、こちらに」
その時、何処からともなく黒尽くめの男が近藤の目の前に姿を現した。
まるで忍びのような身の熟しと格好に、雪は呆気に取られる。