想いと共に花と散る
「無関係な町人や役人を襲うことで、相手に恐怖を与えることができる。結果的に、己を高台へと上げ武力的にも精神的にも優位を取れる……というのも可能性の一つやもしれません」
あくまでも山崎一人の憶測でしかない。監察方としてえられた情報から導き出した、可能性の一つだ。
しかし、この場にいる誰もが妙に納得していた。
どちらの理由も、表面上で立場的に優位を取れる。周りから恐れられればられるほど、刀を抜かずして相手を脅せるようになれる。
かつて新撰組が壬生浪士組と名乗っていた頃、鉄扇を振るうだけで誰もを従えた男がいた。
歯向かえば斬られる。そう洗脳されたからこそ、誰も太刀打ちできなかったのだ。
「……質の悪いこった」
蔑みの色が滲む土方の低い声が静かに落ちる。
しんと静まり返った部屋の中には、張り詰めた緊張感が漂っていた。
「証言の中に、“浅葱色の羽織を見た”という話がありました。事前にお聞きした噂とやらと合致しています」
「噂?」
山崎の発言に藤堂が頭の上に疑問符を浮かべる。
局長と副長はもちろん、任務のために山崎には話が通っていたようだが、他の幹部までは行き渡っていなかったらしい。
藤堂を含む他の幹部達は、何が何だか分からず理解に苦しんでいた。
「あ! す、すまん。すっかり山崎君にまかせようとしていた任務に気を取られていて、話を通し忘れていた。雪君、君から例の噂について聞かせてもらえるかい?」
「えっ、あ、はい。分かりました」
この期に及んでようやく理解した。
何故、幹部だけを集めた秘密裏の会議に雪が呼ばれたのか。
沖田の報告でしか噂について知らない近藤と土方と違い、直接話を聞いた雪の方が説明するに適していると判断されたようである。
まさか指名されるとは思っておらず、雪は戸惑いの声を上げた。
全員の視線を一身に受け、雪は身を強張らせる。しかし、今更逃げ出すわけにもいかない。
雪は手に持っていたお盆を傍らに置き、改めて姿勢を正すと深く息を吸った。
「辻斬りの噂について教えてくれたのは、町にある甘味処で働く女の子です」
小夜の名前は口にせず、大雑把に彼女の紹介を交えて説明する。
少しでも小夜をこの辻斬りの噂から遠ざけること、決して巻き込まないようにするためだ。
「その子が直接見たわけじゃなくて、お店に来たお客さんから聞いたらしいんですけど……」
静まり返った座敷の中に雪の声だけが静かに響く。