想いと共に花と散る
 沖田と共に聞いた小夜の話を思い返しながら、雪は淡々と幹部達に説明した。

「その辻斬りは、毎晩一人ずつしか襲わないそうなんです。一人襲うとすぐに姿を晦ます、それがここ一ヶ月は続いているみたいで」
「一ヶ月……被害者は三十人以上いるとのことだったな」
「確かに、山崎の話と概ね合致している」

 訝しげな表情を浮かべる土方を横目に、雪はその日の小夜の様子を思い返す。
 自分からは話し辛そうに言葉を詰まらせ、時折何かに怯えるような様子を見せた。
 天真爛漫な小夜だからこそ、あの時の怯えた様は異様であった。

「そして、その子が聞いたっていうお客さんの話では、辻斬りは“浅葱色の羽織を着ていた”そうです。町の人々はその話を信じて、新撰組を恐れていると」

 雪は無意識の内に、斜め前に座って黙り込む沖田に視線を向けていた。
 一度も口を開こうとはせず、何処か虚ろな目を畳に落として何かを考え倦ねている。

「随分と舐めたマネをする奴だな」
「全くだ! 俺等の名前を使って悪事を働こうなんざ、迷惑極まりないっての!」

 原田と藤堂の怒りの声が静かだった座敷の中に響き渡る。
 知っていることは全て話し終えた雪は、土方を挟んだ向こう側に座っている近藤を見やった。
 目が合うと、近藤は一つ頷いてみせる。

「と、いうわけだ。ここまでで何か気になることがある者はいるか?」

 落ち着いてはいるものの、近藤の声音にも感情の起伏が現れ出した。
 平隊士には秘密裏にするため朝早くから会議を始めたはずが、いつの間にか障子の向こうの空は澄み渡っている。
 そろそろ区切りをつけないと、誰かに聞かれてしまうかもしれないという焦りを近藤は感じたのだろう。
 周囲を見渡して発せられた近藤の言葉に、反応を見せた者が一人いる。

「……いいでしょうか」
「山南さん、何か気になることが?」
「ええ、少し。……沖田君、よろしいでしょうか」

 それまでずっと上の空だった沖田の意識が山南に向けられる。
 話を聞いていなかったのか、状況を飲み込めていない沖田は突然名を呼ばれたことに目を白黒させる。

「え、あっ、はい」
「雪君だけでなく、君にも何か気付いていることがるのでは?」

 その一言で、場の空気が一変した。
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