おもひで猫列車へようこそ〜後悔を抱えたあなたにサヨナラを〜
夏祭りに誘われて、花火を見た後に彼から告白されたときは夢みたいだった。

一緒に講義を受けてスケッチをして手を繋いで帰り、同じご飯を食べて一緒に眠る。

ただそれだけで幸せで私はこのままずっと静馬くんの隣に居て、絵が描けたらそれでいいな、なんて呑気に構えて毎日やってくる日常にあぐらをかいていた。

このままずっと、なんて誰も保証なんてしてくれない。

また明日も必ずやってくるなんて、神様にだってわからない。

運命は予想できないから運命なんだと思う。
出会いも別れも。
幸せな約束も残酷な後悔も。

もっと、いや、もう少しだけちゃんと心に刻んで生きていれば何か変わっていたんだろうか。


『──桜、明日の夜どこ行きたい?』

聞こえてきた彼の言葉にハッとすると、私は勢いよく顔を上げた。そして私は過去の私と話している彼に向かって首を振り叫んだ。

「静馬くん! ダメ!」

私はそう叫ぶと車内から扉の外へ出ようとして、いつのまにか扉が閉まっていることに気づく。

「え……、なんでっ」

どうにか開けれることはできないかと扉の境目に指をかけるがびくともしない。

「お願い……、開いて……っ」

爪と指が白くなるほど力をこめるが扉は開かない。

『静馬くん。私ね、流星群観てみたい、かも』

「え?」

扉はピタリと閉じているのに不思議と扉の向こう側の二人の会話は、さっきまでと同じ音量で聞こえてくる。

静馬くんにはにかんだ笑顔を向ける私自身を見ながら、私はギリッと奥歯を噛んだ。
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