おもひで猫列車へようこそ〜後悔を抱えたあなたにサヨナラを〜
「今の駅が桜が後悔を抱える前の最後の日や。これからトンネルを出たら、桜の戻りたい過去、ようは後悔を思い出にできる終点にたどり着く」

「私、よくわからない。過去はさっきも変わらなったじゃない……何も……っ」

「言うたやろ、過去は変えられへん。変えられるのは後悔だけや」

「ヒデさんの言うこと……やっぱりわからないよっ」

ヒデさんが悪いわけではないのに、無性に悲しくてやり切れなくて八つ当たりのような言葉を吐いてしまう。

「……それでええ。答えは終点で桜自身が見つけるしかないんや」

「何それ、後悔を思い出に変えれるって言ったのに。さっきの……静馬くんの顔見たら……もっと苦しくなった……もっと、もっと後悔が増えた……」

掠れた小さな声はどこまでヒデさんに聞こえたかわからない。

でもヒデさんが何かを考えて、かみしめるように何度も頷くのが見えた。

居心地の悪い空気が流れて、私は床に視線を落とすと少し汚れているスニーカーのつま先を意味もなく見つめた。

そんな私をみかねたのか、ヒデさんがふいに私のワンピースの裾をツンと引っ張った。

「桜、トンネル入ったらわしとはお別れや」

「え?」

「残念やけどな。もう時間ないねん」

その言葉に途端に言い知れない焦燥感に駆られるが、どうしたらいいのかわからない。

「あの、私……っ」

咄嗟に口を開けど、続く言葉が浮かばない。

「ん?」

「なんか……ごめんなさい……」

「なんや急に。おっかしなやっちゃなぁ」

ヒデさんは明るいトーンでそう言って、おどけるように尻尾をくるくると回した。

「だって……さっきや八つ当たりみたいにしちゃって……」

「なんや。桜はほんまに気にし~やなぁ。考えすぎや」

ヒデさんは、にゃははと笑いとばしてから大きな目をこちらにまっすぐに向けた。
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