おもひで猫列車へようこそ〜後悔を抱えたあなたにサヨナラを〜
「桜にわしからの餞別や」

「え……っ?」

「手だしぃ」

「ん? 手? こう?」 

ひでさんは糸のように目を細めると、私の手のひらに手を添えた。

「よう見とき。漢字、一文字やで」

(?)

きょとんとしてる私の手のひらの上からヒデさんは、前足でゆっくりと透明の文字を描いていく。

私はヒデさんの描いたその一文字がすぐに分かった。

「桜、これ飲み込み」

「え? 『笑』って言う字を?」

緊張をしないようにと『人』という字を飲み込む話は聞いたことがあるが『笑』は初めてだ。

「おうおう、正解や。せや、これを飲み込んどったらな、これから長い人生、しんどいことあっても絶対最後は笑っとるから」

「ヒデさん……」

ヒデさんらしい励ましと言葉に頬に涙が流れる。

「こら。ゆうてるそばから泣いたらあかん」

「……ですよね」

私はきゅっと口角を上げると手のひらの『笑』を大きな口で一気に飲み込んだ。

「えぇ飲みっぷりや」

「笑う門には福きたる、ですよね」

「ちゃうちゃう、笑う門には福きたる~ぅ、や」

イントネーションの違いを指摘されて私はクスっと笑った。

そんな私を見ながら、ヒデさんが敬礼のポーズをする。

「本日は~おもひで猫列車にご乗車くださり~誠にありがとうございました。あなたの後悔が、良きおもひでになることを猫一同心より願っております~」

そして私もヒデさんに向かって敬礼ポーズをした瞬間、目の前が真っ暗になった。
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