おもひで猫列車へようこそ〜後悔を抱えたあなたにサヨナラを〜
あの日の約束と後悔を思い出へ
列車がトンネルに入った間、視界は暗いままだったが目が慣れる前にトンネルを抜けた。

明るかったはずの風景は夜に変わっている。
また目の前にいたはずのヒデさんの姿はどこにもなく、視線の先には『星野丘公園駅』と書かれた駅名標が見えた。

私が知っている限り、その名の公園はあるが、同名の駅は存在しない。

「静馬くんと……約束した場所が、終点?」

列車が停車し、勝手に扉が開くと私は駅のホームに足を踏み出した。

そして一つしかないコンクリートの階段を降りれば、そこは星野丘公園だった。

夜空には無数の星が輝き、辺りには誰もいない。

「やっぱりあの日と同じ……」

私は数メートル先に見えている、待ち合わせ場所である桜の樹の下に向かってゆっくりと歩いていく。春はお花見、夏は生い茂る葉をスケッチして、秋は色づいた葉の下でピクニックをした思い出の詰まった桜の樹。
そして、私にとって冬の桜の樹は別れと後悔の象徴だ。

桜の樹が近づくにつれて、過去が蘇って、心臓が嫌な音を立て始める。私は無意識に胸元を手で握りしめた。

私は静馬くんと約束をしたあの日も、時間通りにこの桜の樹の下に来た──でも静馬くんはいくら待っても来なかった。

始めはアルバイトが長引いてるのかと思ってのんびり星を眺めていたが、三十分経つ頃には何かあったのかと酷く不安になった。

メッセージも既読にならず、いくらかけても出ない電話に何度も留守電をいれた。そのうち、いてもたってもいられなくなって彼のアパートへ行ってみようと桜の樹をあとしたとき、電話がかかってきた。

出れば、病院からの電話で彼が自転車で単独事故を起こし病院に運ばれたことを知った。

そのあとのことは正直よく覚えていない。

無我夢中で病院にタクシーで向かい、冷たくなった彼を見て心が消えてなくなった。

私の心からも世界からも色がなくなって、目に映る全てが灰色になった。ただ私の手元に残ったのは深い後悔だけだった。
< 24 / 31 >

この作品をシェア

pagetop