おもひで猫列車へようこそ〜後悔を抱えたあなたにサヨナラを〜
「夢だけど、現実っていうか過去っていうか。桜には難しいよな」

「静馬くんは、わかるの?」

「……ある程度ね。俺はもう現実世界では生きてないからさ」

「…………」

その寂しげな彼の言葉に胸が針で刺したように痛む。

「そんな顔しないで。だってこの時間は俺たちが願ってた過去になるんだ」

(願ってた、過去……)

「それは……あの日、約束通り……今みたいに会えてたらってこと?」

「うん、多分そうだと俺は思ってる。おいで、こっち座ろ」

静馬くんが私の手を引くと、桜の樹の真下に腰を下ろす。

「寒くない?」

「大丈夫だよ」

「って、カイロ持ってないんだけどね」

彼が小さく舌を出すのを見て私も表情を緩める。繋いだままの手のひらはあたたかくて、二つの白い吐息は夜空にふわりと消える。

「見て、桜。星綺麗だな」

「……本当だ……流れ星いっぱいだね」

藍色の夜空には白銀の繊細な輝きが、花火を散らすように流れて消えてを繰り返している。

「やっと、二人で見れた」

「うん……」

いつまでもこうしていたい。
彼と一緒にいたい。そんな想いだけが溢れて心が締め付けられる。
けれど、きっとそれは叶わない。隣の静馬くんの横顔は穏やかででも寂しげで、この時間に終わりがあることを嫌でも悟ってしまう。

私は繋いでいる手にぎゅっと力を込めた。

「……静馬くん」

「ん?」

「私……、ずっと静馬くんに謝りたかったの……」

「それは俺の方だよ。待ち合わせしてたのに……ごめんな」

「ううん、違う……っ。私のせい……私が星なんか見たいって言わなかったら……」

「それは違うよ」

静馬くんは私の言葉を遮ると、唇を湿らせてからまっすぐに私を見つめた。
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