あなたとは合わないと思っていたけれど
一年半後――。
武琉は念願だった機長に昇格した。
三十三歳。ASJ史上最年少機長の誕生だ。
香澄は仕事を終えっると、大急ぎで羽田空港内運行管理センターに駆けつけた。
センター内でのお祝いにどうしても参加したかったからだ。
会議室には、大勢の社員が集まり、武琉を祝福している。
「香澄、こっち!」
香澄が部屋に入ると、菜恵が気づいて手招きしてくれた。
「よかった、間に合って」
「うん、今までで一番急いだよ」
香澄は額の汗を拭きながら視線を巡らせた。
会議室の中央に武琉がいた。
最高の笑顔で、体中から喜びがあふれている。
「香澄、渡してあげて」
菜恵が大きな花束を香澄に手渡した。
「うん」
香澄はゆっくりと武琉に向かって歩き出す。
彼はすぐに気づいて、顔を輝かせた。
「武琉さん、機長昇格おめでとう!」
「ありがとう」
武琉が花束をそっと受け取る。
「天谷機長が、奥さんから祝福されて喜んでる!」
同僚たちが囃し立てる声に、香澄は照れ笑いをした。
けれど武琉は香澄の額を見て、顔を曇らせた。
「走ってきたのか? 危ないじゃないか」
「無理はしてない、でもどうしても遅刻したくなくて。武琉さんの夢が叶った日に立ち合いたかった」
武琉が腕を伸ばして香澄の腰を抱き寄せた。
みんなが見ている前なのに、大胆な行動に香澄は驚き目を丸くする。同時に周囲で歓声が上がる。
「武琉さん?」
慌てる香澄に武琉が耳元で囁いた。
「ありがとう。お腹の子供も喜んでくれているといいな」
「……うん、きっと祝福してくれてる。早く会えるといいね」
希望溢れる未来を想像して、香澄と武琉は心から微笑あった。


