【稀代の悪女】は追放されましたので~今世こそ力を隠して、家出三つ子と平穏な日々を楽しみます~
私が鑑定を受けた翌年。
マリリンの《ギフト》が神殿の鑑定で【治癒魔法】だとわかったときには、世間を賑わせた。
父はそれはもう怒りに打ち震え、意味もなく私を怒鳴りつけたほどだ。
それからしばらくして、男爵家にどう交渉したのかわからないけど、マリリンが伯爵家の養女に迎えられたときにはかなり驚いた。
『リンネア、今日からお前の義妹だよ。礼儀作法などいろいろと教えてやってくれ』
『──わかりました、お父様』
『よろしくお願いします。お義姉様』
『ええ、よろしくね。マリリン。──マリリンと呼んでもいいかしら?』
『もちろんです!』
不安そうな顔をしていたマリリンは、私が声をかけると、ぱあっと顔を輝かせた。
そのときの私は、この子を守らなければと、前々世の私のように搾取されないようにしてあげないと、と強く誓った。
その気持ちも、あっという間にどうでもよくなったけれど。
それはマリリンの本性がすぐにわかったから。
『お義姉様の《ギフト》って、【温度調節】なんですってね? それでいったい何ができるんですか? 私も火魔法なら使えるので、部屋が寒ければ暖炉に火を熾すこともできますし、十分だと思うんですけど……』
『そうね。部屋を暖める程度なら、私の《ギフト》なんて必要ないわね。それよりも、マリリンの【治癒魔法】はとても素晴らしいものよ。だけど、あまりむやみに使わないほうがいいと思うの。魔力を消耗しすぎると、体にも障(さわ)るのだから』
『ええ? 嫉妬ですか?』
『そうじゃないわ。ただ、自分を大切にしてほしいだけ』
どう言えば、前々世で力を搾取され、消耗して死んでしまったことを伝えられるだろうかと何度も悩んだ。
でも、マリリンにきちんと伝えることはできなくて、気がつけば私は義理の妹に嫉妬して、力を使わないようにと言い含めていると思われたようだった。
『リンネア! お前はマリリンになんてことを言うんだ! 嫉妬はみっともないぞ!』
『お父様、そうではありません。ただ、聞いたところによると、マリリンの痣は大きくても薄いようですので、力を使いすぎると消耗が激しいのではないかと心配しているのです』
『それはお前が口を出すことではない! 神官たちからも、マリリンは素晴らしい力の持ち主だとお墨付きをもらっているのだ! 余計なことは考えず、せめてお前はディルク殿下にもう少し気に入られる努力をしろ!』
マリリンが父に言いつけたのか、私は酷く叱られ、屋敷の中に居づらくなってしまった。
それも両親が明らかにマリリンを可愛がり、私を邪険にするようになったから。
使用人たちもどうすればいいのか戸惑い、次第に私を見えないものとして扱うようになっていた。
それが使用人たちの処世術であり、つい一年前までは宝物を扱うように接してくれていた人たちの変わり身の早さに落胆しつつも納得していた。
だから、マリリンが行方不明になってからの一連の動きの中で、私を庇(かば)ってくれる人が誰もいないことも仕方ないと思ってはいた。
それとも、達観せずにもっと人と関わりを持とうと努力すればよかったのかもしれない。
だけど、貴族同士の友情を深めようにも、すでに王太子の婚約者だった私に下心なく近づいてくる子はおらず、私も一定の距離を置いてしまった。
さらには当の王太子――ディルク殿下は性格が悪すぎて親しくなりたいとも思えず、どうやったらこの状況から逃げられるだろうかとばかり考えていた。
だから、ディルク殿下のご機嫌うかがいに王宮を訪問するとき、マリリンが同行したいと言ったときは嬉しかった。
しかも、マリリンはあからさまにディルク殿下にお世辞を言い、いい気分にさせてまさしくご機嫌を取ってくれる。
この調子で、私との婚約を解消して、マリリンと婚約してくれればと願っていた私が馬鹿だった。
マリリンがかなり強(したた)かな性格をしていると、気づいていたのに。
もっと早く、私から両親にディルク殿下との婚約解消を願い出ればよかったのだろう。
マリリンの《ギフト》が神殿の鑑定で【治癒魔法】だとわかったときには、世間を賑わせた。
父はそれはもう怒りに打ち震え、意味もなく私を怒鳴りつけたほどだ。
それからしばらくして、男爵家にどう交渉したのかわからないけど、マリリンが伯爵家の養女に迎えられたときにはかなり驚いた。
『リンネア、今日からお前の義妹だよ。礼儀作法などいろいろと教えてやってくれ』
『──わかりました、お父様』
『よろしくお願いします。お義姉様』
『ええ、よろしくね。マリリン。──マリリンと呼んでもいいかしら?』
『もちろんです!』
不安そうな顔をしていたマリリンは、私が声をかけると、ぱあっと顔を輝かせた。
そのときの私は、この子を守らなければと、前々世の私のように搾取されないようにしてあげないと、と強く誓った。
その気持ちも、あっという間にどうでもよくなったけれど。
それはマリリンの本性がすぐにわかったから。
『お義姉様の《ギフト》って、【温度調節】なんですってね? それでいったい何ができるんですか? 私も火魔法なら使えるので、部屋が寒ければ暖炉に火を熾すこともできますし、十分だと思うんですけど……』
『そうね。部屋を暖める程度なら、私の《ギフト》なんて必要ないわね。それよりも、マリリンの【治癒魔法】はとても素晴らしいものよ。だけど、あまりむやみに使わないほうがいいと思うの。魔力を消耗しすぎると、体にも障(さわ)るのだから』
『ええ? 嫉妬ですか?』
『そうじゃないわ。ただ、自分を大切にしてほしいだけ』
どう言えば、前々世で力を搾取され、消耗して死んでしまったことを伝えられるだろうかと何度も悩んだ。
でも、マリリンにきちんと伝えることはできなくて、気がつけば私は義理の妹に嫉妬して、力を使わないようにと言い含めていると思われたようだった。
『リンネア! お前はマリリンになんてことを言うんだ! 嫉妬はみっともないぞ!』
『お父様、そうではありません。ただ、聞いたところによると、マリリンの痣は大きくても薄いようですので、力を使いすぎると消耗が激しいのではないかと心配しているのです』
『それはお前が口を出すことではない! 神官たちからも、マリリンは素晴らしい力の持ち主だとお墨付きをもらっているのだ! 余計なことは考えず、せめてお前はディルク殿下にもう少し気に入られる努力をしろ!』
マリリンが父に言いつけたのか、私は酷く叱られ、屋敷の中に居づらくなってしまった。
それも両親が明らかにマリリンを可愛がり、私を邪険にするようになったから。
使用人たちもどうすればいいのか戸惑い、次第に私を見えないものとして扱うようになっていた。
それが使用人たちの処世術であり、つい一年前までは宝物を扱うように接してくれていた人たちの変わり身の早さに落胆しつつも納得していた。
だから、マリリンが行方不明になってからの一連の動きの中で、私を庇(かば)ってくれる人が誰もいないことも仕方ないと思ってはいた。
それとも、達観せずにもっと人と関わりを持とうと努力すればよかったのかもしれない。
だけど、貴族同士の友情を深めようにも、すでに王太子の婚約者だった私に下心なく近づいてくる子はおらず、私も一定の距離を置いてしまった。
さらには当の王太子――ディルク殿下は性格が悪すぎて親しくなりたいとも思えず、どうやったらこの状況から逃げられるだろうかとばかり考えていた。
だから、ディルク殿下のご機嫌うかがいに王宮を訪問するとき、マリリンが同行したいと言ったときは嬉しかった。
しかも、マリリンはあからさまにディルク殿下にお世辞を言い、いい気分にさせてまさしくご機嫌を取ってくれる。
この調子で、私との婚約を解消して、マリリンと婚約してくれればと願っていた私が馬鹿だった。
マリリンがかなり強(したた)かな性格をしていると、気づいていたのに。
もっと早く、私から両親にディルク殿下との婚約解消を願い出ればよかったのだろう。