御曹司の深い愛が双子ママの心を甘く溶かす
バーテンダーにお酒を注文する所作すら洗練されている彼の顔をまじまじと見つめて、私はハッと気が付いた。
前髪を立ち上げたアップバングスタイルの黒髪に、クールで知的な印象を与える涼し気な目元。
やっぱりそうだ。
あの男性は私の勤務先であるMISUMI電気の社長、三澄洸星さんだ。
創業家の嫡男で、グループ会社を合わせると五百社近い企業を束ねるMISUMIホールディングスの次期社長と噂されているーーと、調理担当のパートさんたちが話していた。
そんな人がどうしてカジュアルバーに?
私では入れないような会員制の高級バーの方が彼にはお似合いなのに。
ついじっと見ていると、そんな私の視線に気が付いたのか三澄社長がちらりとこちらを向いた。目が合って慌てて逸らす。
おそらく、というよりも絶対に三澄社長は社員食堂で働く私のことなんて知らない。
彼が社員食堂に訪れたのは一度だけ。まだ社長に就任して間もない頃に社内交流会で社員食堂を使用したときに来たときだけだ。
その際、私がカウンターで定食を手渡したのだが、何百人といる社員を束ねる三澄社長が私のことなど覚えているはずがない。
私が一方的に彼を知っているだけなのだから、執拗に見つめると怪しい人に思われてしまう。
気にはなるが三澄社長のことを意識しないようにして私は二杯目のお酒を注文した。