ブーケの行方と、あの日の片思い
第七章:思い出の交差点
式典が終わり、参列者たちは披露宴会場へと案内されていく。
優花は友人たちと連れ立ち、煌びやかな廊下をゆっくりと進んだ。
「美咲、本当に可愛かったね! 最後のブーケ、私の方に飛んできてほしかった〜!」
恵理が弾む声で話し、周囲に笑いが広がる。
優花も頷きながら、先ほどの教会のシーンをひとつひとつ噛みしめていた。
特に胸に残っているのは、美咲の父が語った短いながら深い愛情に満ちた言葉。
あの挨拶には、優花の胸の奥がつんと熱くなった。
(あの言葉……宏樹も聞いていたんだよな)
ほんの些細なことさえ、宏樹と共有した“同じ瞬間”として心に刻まれてしまう。
今日の結婚式は、美咲の門出であり、同時に――
優花にとって、過去と今が重なり合う特別な「交差点」でもあった。
優花が宏樹に出会ったのは、高校の入学式の日。
クラスの隅で緊張していた優花に、さらりと声をかけてくれた美咲。
その日のうちに彼女の明るい輪に引き込まれ、そこで初めて出会ったのが――沢村宏樹。
成績優秀、スポーツ万能、屈託なく笑う中心人物。
まるで、ひとりだけステージライトの下に立つように輝いていた。
優花が彼を特別に意識し始めたのは、夏休み明けのある日。
通学路で、大量の教科書を落として四苦八苦していた優花の前に、宏樹が現れた。
「大丈夫? 重そうだよ」
そう言って、優花が最も苦手としていた世界史の分厚い資料集をすっと拾い上げる。
何も聞かず、何も求めず。
ただ困っている人を助ける、それだけ。
優花の自宅そばの角まで付き添い、「じゃあね」と手を振って去っていった。
――それだけのこと。
彼にとっては、きっとほんの些細な行動。
でも優花にとっては、胸の奥の何かを決定的に変えてしまう瞬間だった。
その日から、彼の言葉の一つ、笑顔の一つが、優花の世界の色を変えてしまった。
誰にも言わない、言えない、静かな片思いの始まり。
「相沢様、お席はこちらです」
案内係の声に、優花はそっと回想を閉じ、披露宴会場の前へと歩み出た。
扉の向こうから漏れる光は華やかで、温かく、そして新しい時間の始まりを告げていた。
(……あの頃の私に、さよならを)
優花は一歩踏み出す。
過去の片思いにただ震えていた少女ではない。
今の優花は、もう後ろを向かない。
目の前に広がる明るい会場のどこかに、
あの日の“憧れの人”――沢村宏樹がいる。
胸がわずかに高鳴る。
しかし、その鼓動から逃げるつもりはなかった。
優花は静かに息を吸い込み、披露宴会場の光の中へと進み入った。
優花は友人たちと連れ立ち、煌びやかな廊下をゆっくりと進んだ。
「美咲、本当に可愛かったね! 最後のブーケ、私の方に飛んできてほしかった〜!」
恵理が弾む声で話し、周囲に笑いが広がる。
優花も頷きながら、先ほどの教会のシーンをひとつひとつ噛みしめていた。
特に胸に残っているのは、美咲の父が語った短いながら深い愛情に満ちた言葉。
あの挨拶には、優花の胸の奥がつんと熱くなった。
(あの言葉……宏樹も聞いていたんだよな)
ほんの些細なことさえ、宏樹と共有した“同じ瞬間”として心に刻まれてしまう。
今日の結婚式は、美咲の門出であり、同時に――
優花にとって、過去と今が重なり合う特別な「交差点」でもあった。
優花が宏樹に出会ったのは、高校の入学式の日。
クラスの隅で緊張していた優花に、さらりと声をかけてくれた美咲。
その日のうちに彼女の明るい輪に引き込まれ、そこで初めて出会ったのが――沢村宏樹。
成績優秀、スポーツ万能、屈託なく笑う中心人物。
まるで、ひとりだけステージライトの下に立つように輝いていた。
優花が彼を特別に意識し始めたのは、夏休み明けのある日。
通学路で、大量の教科書を落として四苦八苦していた優花の前に、宏樹が現れた。
「大丈夫? 重そうだよ」
そう言って、優花が最も苦手としていた世界史の分厚い資料集をすっと拾い上げる。
何も聞かず、何も求めず。
ただ困っている人を助ける、それだけ。
優花の自宅そばの角まで付き添い、「じゃあね」と手を振って去っていった。
――それだけのこと。
彼にとっては、きっとほんの些細な行動。
でも優花にとっては、胸の奥の何かを決定的に変えてしまう瞬間だった。
その日から、彼の言葉の一つ、笑顔の一つが、優花の世界の色を変えてしまった。
誰にも言わない、言えない、静かな片思いの始まり。
「相沢様、お席はこちらです」
案内係の声に、優花はそっと回想を閉じ、披露宴会場の前へと歩み出た。
扉の向こうから漏れる光は華やかで、温かく、そして新しい時間の始まりを告げていた。
(……あの頃の私に、さよならを)
優花は一歩踏み出す。
過去の片思いにただ震えていた少女ではない。
今の優花は、もう後ろを向かない。
目の前に広がる明るい会場のどこかに、
あの日の“憧れの人”――沢村宏樹がいる。
胸がわずかに高鳴る。
しかし、その鼓動から逃げるつもりはなかった。
優花は静かに息を吸い込み、披露宴会場の光の中へと進み入った。