【WEB版】「無価値」と捨てるのは結構ですが、私の力は「本物」だったようですよ? ~離縁された転生令嬢、実は希少魔法の使い手でした~
18 別れを告げる
半年以上、暮らしてきたヘレーネ叔母さんの家。
頼る相手が他にいなくて、そこまで縁深くもなかった叔母さんを頼ってきた。
そこにはリーフェルトくんがいた。彼は病気で倒れていて……。
なし崩し的に一緒に暮らすようになった。
初めはこの家での生活を整えること大忙しだったな。
リーフェルトくんの体調も心配だったし。
一年にも満たない時間とはいえ、同じ家で暮らしてきた子だ。
もう家族としての情だって生まれている。
これからも、この村でリーフェルトくんと一緒に生きていこうと思っていた矢先だっただけに、より強くショックを受けた。
これから先、私自身がどうすればいいのかと不安で仕方ない。
私に意地悪だった義妹ミシェルがウィリアム様に嫁ぎ、そのあと、ローデン家がわざわざ私の捜索をするなんて。
まだ公爵家が捜すならわかるが、これでは絶対にまともな理由じゃないだろう。
行くあてはもうない。
根無し草のまま、目的地もなく流離うか。
「はぁ……」
食べる物は用意できる。
でも、暮らす家というのものは簡単には得られない。
我がことの不安も尽きないのに。
何より今一番につらいと思うのは、リーフェルトくんに別れを告げなければいけないことだ。
どんな顔して伝えればいいの。
笑ってくれるようになった。お守りを作って、互いに贈り合った。
一緒に暮らす家族として認めてくれていると思うのだ。そんな彼に。
リーフェルトくんは、実の母に置いていかれた子供だ。
それがまた家族を失うことになる。
彼のために、私はどういう態度でいるべきか。
よくあるのはリーフェルトくんにあえて嫌われるように仕向けること。
残される彼が、私について気持ちを引かれないように、というのが定番だ。
……だが、これはやめておこうと思う。
この半年で私とリーフェルトくんは、とても仲よくやってこられたのだ。
それがいきなり理由もわからず嫌われて離別なんて。
その方がトラウマだろう。
それをされたら彼の心が荒み、ゆがんでしまう。
そんなことは望んでいない。
「……きちんと、誠実に話さないとね」
なぜ、一緒にいられなくなるのか。
リーフェルトくんに誠実に話すのだ。嘘をつかずに。
相手が子供だからってごまかさずに。
理由がわからないより、きっとわかった方がいい。
これから別々に生きていくとしても。
「リーフェルトくん」
「なーにー?」
呼びかけると無邪気に笑って駆け寄ってくるリーフェルトくん。
笑顔がまぶしくて、それが余計につらかった。
「ちょっとお話ししよっか。大事な話よ」
「うん!」
私たちは家の中で向かい合って座る。
キラキラの笑顔だ。
前世も含めて、私には自分の子供というものはいない。
でも、もうリーフェルトくんの保護者として親心は抱いている。
ああ、本当につらい。この笑顔をこれから曇らせてしまう。
「ちょっと……。私の、ね。元旦那様の家が、私のことを捜しているらしいの」
リーフェルトくんはコテンと首をかしげる。
「正確な理由はわからないわ。ただ、私は春になったら、この村を出ていく」
「え……」
言葉を失うリーフェルトくん。
表情を失い、うつむいてしまう。
……キツいなぁ。
「ここに私がいるとね。皆に迷惑がかかるの。リーフェルトくんにも、だね。だから、私は村にはいられない。でも冬の間は待ってくれるらしいの。だから、あと一ヶ月か二ヶ月。それで……私はこの村から出ていく」
「…………」
「リーフェルトくんは……」
教会で世話をしてもらえる。
……そう言っていいのだろうか。
だって、そんな話は、きっと叔母さんがいなくなってから私が来るまでにあったはずだ。
農村は都市部より周りの住人との距離が近い。
叔母さんがいなくなったことも、家でリーフェルトくんが一人だったことも村人は知っていた。
だから、村の大人か神父さんがリーフェルトくんに保護を申し入れたはずだ。
でも、彼はこの家で一人だった。
きっと叔母さんを家で待っていたかったからだ。
なら、私がいなくなろうとも、やっぱりこの家で叔母さんを待ちたいんじゃないか。
……違う。そうじゃないわね。
私の前世は現代日本人だ。
『物語』に触れる機会は多かったからわかる。
ここで、ありきたりな、彼を気遣ったふりの別れの言葉をかけるのは悪手だと。
この年頃の子が、実の母親がいなくなったあとの子が。
あんなふうに笑って一緒に暮らして、お守りを作ってくれてプレゼントしてくれて。
そこまでする相手が、ただの他人なわけがない。
家族。もう家族なのよ、私たちは。だったら私が言うべきことはこうだ。
「リーフェルトくん。私と一緒に村を出ていかない?」
「……え?」
リーフェルトくんは驚いて、うつむいていた顔を上げる。
「もちろん、まだ行く先なんてない。それどころか私は侯爵家の追手から逃げなくちゃいけなくなるわ。私と一緒にいたら、リーフェルトくんを大変な目に遭わせるかもしれない。村の人たちは巻き込みたくないし、彼らだって生活を守るために、生きていくために、貴族に目をつけられるわけにはいかないから、私とは関わりたくないでしょう」
私は、ゆっくりと手を伸ばしてリーフェルトくんの手に自分の手を、そっと重ねた。
「でも、私はリーフェルトくんと一緒に暮らしたいわ。あなたが大人になるまで、ずっと一緒に村で暮らしていこうと思っていた。もう、あなたを私の家族だと思っているの。だから、私はリーフェルトくんと離れたくない」
真剣に。本当にそう思って、願って言葉をかける。
リーフェルトくんは、ほんの三週間とはいえ、大人の声かけをはねのけて叔母さんを待つために、一人暮らしをしていた頑固者だ。
だから、きっとこの話を断るだけの胆力だってある。
この家で暮らす価値は今も彼にとって同じだろう。
この家で実の母の帰りを待ちたいはずだ。
私は真剣に彼と一緒にいたいと願うけれど、リーフェルトくんが断る余地も残す。
下手にこちらから別れを告げるより、こうした方が彼の気持ちを前へ向けられるだろう。
これは大人の優しさなんかじゃない。
シビアな選択を、幼いリーフェルトくんに迫る。
「私と一緒に来てほしい、リーフェルトくん」
彼は、一方的に家族から捨てられるかわいそうな子供じゃあない。
家族から一緒にいたいと願われながら、自分の意思で村に残るかどうか決意をする、一人の自立した人間になる。
「……僕……は……」
「……うん」
苦悩している。
私が話し始めてから、ずっと耐えるような表情をしていた。
拳も握り込んでいたのだろう。
また家族に置いていかれるのだと身構えていたのだ。
だけど今、彼には選択肢が突きつけられた。
私は、リーフェルトくんに悲劇の主人公になる選択をさせなかった。
「……どう……したら……」
「わからない?」
「…………うん」
泣きそうな、ううん。もう目尻に涙が溢れていて、泣いている。
「……ごめんね」
私は優しくその涙を拭ってあげた。
「すぐに答えを出さなくていいんだよ。リーフェルトくんの気持ちが大事だから。それに、まだ時間があるわ。私はこれから村を、この家を出ていく準備をする。リーフェルトくんのための薬も幾らか残しておく。とにかく私にできる限りのことをしていく。その間に答えを決めて。……答えを出す期限も決めてしまいましょう。十日後。明日を一日目として十日だけ待つ。それまでにリーフェルトくんなりの答えを出して。その答えによって、そこから準備することを変えるから」
私は涙を拭ったそのまま彼の頬に手を添えた。
「たとえ、リーフェルトくんがこの村に残る決断をしたとしても。ここで私たちが離れ離れになってしまうとしても。離れていても、私たちはもう家族よ。それだけは信じてほしい」
「…………うん」
こうして私は十日間。リーフェルトくんに考える時間を与えることにした。
もちろん、その十日間をただ待つだけにはしない。私は村を出ていく準備を始めた。
頼る相手が他にいなくて、そこまで縁深くもなかった叔母さんを頼ってきた。
そこにはリーフェルトくんがいた。彼は病気で倒れていて……。
なし崩し的に一緒に暮らすようになった。
初めはこの家での生活を整えること大忙しだったな。
リーフェルトくんの体調も心配だったし。
一年にも満たない時間とはいえ、同じ家で暮らしてきた子だ。
もう家族としての情だって生まれている。
これからも、この村でリーフェルトくんと一緒に生きていこうと思っていた矢先だっただけに、より強くショックを受けた。
これから先、私自身がどうすればいいのかと不安で仕方ない。
私に意地悪だった義妹ミシェルがウィリアム様に嫁ぎ、そのあと、ローデン家がわざわざ私の捜索をするなんて。
まだ公爵家が捜すならわかるが、これでは絶対にまともな理由じゃないだろう。
行くあてはもうない。
根無し草のまま、目的地もなく流離うか。
「はぁ……」
食べる物は用意できる。
でも、暮らす家というのものは簡単には得られない。
我がことの不安も尽きないのに。
何より今一番につらいと思うのは、リーフェルトくんに別れを告げなければいけないことだ。
どんな顔して伝えればいいの。
笑ってくれるようになった。お守りを作って、互いに贈り合った。
一緒に暮らす家族として認めてくれていると思うのだ。そんな彼に。
リーフェルトくんは、実の母に置いていかれた子供だ。
それがまた家族を失うことになる。
彼のために、私はどういう態度でいるべきか。
よくあるのはリーフェルトくんにあえて嫌われるように仕向けること。
残される彼が、私について気持ちを引かれないように、というのが定番だ。
……だが、これはやめておこうと思う。
この半年で私とリーフェルトくんは、とても仲よくやってこられたのだ。
それがいきなり理由もわからず嫌われて離別なんて。
その方がトラウマだろう。
それをされたら彼の心が荒み、ゆがんでしまう。
そんなことは望んでいない。
「……きちんと、誠実に話さないとね」
なぜ、一緒にいられなくなるのか。
リーフェルトくんに誠実に話すのだ。嘘をつかずに。
相手が子供だからってごまかさずに。
理由がわからないより、きっとわかった方がいい。
これから別々に生きていくとしても。
「リーフェルトくん」
「なーにー?」
呼びかけると無邪気に笑って駆け寄ってくるリーフェルトくん。
笑顔がまぶしくて、それが余計につらかった。
「ちょっとお話ししよっか。大事な話よ」
「うん!」
私たちは家の中で向かい合って座る。
キラキラの笑顔だ。
前世も含めて、私には自分の子供というものはいない。
でも、もうリーフェルトくんの保護者として親心は抱いている。
ああ、本当につらい。この笑顔をこれから曇らせてしまう。
「ちょっと……。私の、ね。元旦那様の家が、私のことを捜しているらしいの」
リーフェルトくんはコテンと首をかしげる。
「正確な理由はわからないわ。ただ、私は春になったら、この村を出ていく」
「え……」
言葉を失うリーフェルトくん。
表情を失い、うつむいてしまう。
……キツいなぁ。
「ここに私がいるとね。皆に迷惑がかかるの。リーフェルトくんにも、だね。だから、私は村にはいられない。でも冬の間は待ってくれるらしいの。だから、あと一ヶ月か二ヶ月。それで……私はこの村から出ていく」
「…………」
「リーフェルトくんは……」
教会で世話をしてもらえる。
……そう言っていいのだろうか。
だって、そんな話は、きっと叔母さんがいなくなってから私が来るまでにあったはずだ。
農村は都市部より周りの住人との距離が近い。
叔母さんがいなくなったことも、家でリーフェルトくんが一人だったことも村人は知っていた。
だから、村の大人か神父さんがリーフェルトくんに保護を申し入れたはずだ。
でも、彼はこの家で一人だった。
きっと叔母さんを家で待っていたかったからだ。
なら、私がいなくなろうとも、やっぱりこの家で叔母さんを待ちたいんじゃないか。
……違う。そうじゃないわね。
私の前世は現代日本人だ。
『物語』に触れる機会は多かったからわかる。
ここで、ありきたりな、彼を気遣ったふりの別れの言葉をかけるのは悪手だと。
この年頃の子が、実の母親がいなくなったあとの子が。
あんなふうに笑って一緒に暮らして、お守りを作ってくれてプレゼントしてくれて。
そこまでする相手が、ただの他人なわけがない。
家族。もう家族なのよ、私たちは。だったら私が言うべきことはこうだ。
「リーフェルトくん。私と一緒に村を出ていかない?」
「……え?」
リーフェルトくんは驚いて、うつむいていた顔を上げる。
「もちろん、まだ行く先なんてない。それどころか私は侯爵家の追手から逃げなくちゃいけなくなるわ。私と一緒にいたら、リーフェルトくんを大変な目に遭わせるかもしれない。村の人たちは巻き込みたくないし、彼らだって生活を守るために、生きていくために、貴族に目をつけられるわけにはいかないから、私とは関わりたくないでしょう」
私は、ゆっくりと手を伸ばしてリーフェルトくんの手に自分の手を、そっと重ねた。
「でも、私はリーフェルトくんと一緒に暮らしたいわ。あなたが大人になるまで、ずっと一緒に村で暮らしていこうと思っていた。もう、あなたを私の家族だと思っているの。だから、私はリーフェルトくんと離れたくない」
真剣に。本当にそう思って、願って言葉をかける。
リーフェルトくんは、ほんの三週間とはいえ、大人の声かけをはねのけて叔母さんを待つために、一人暮らしをしていた頑固者だ。
だから、きっとこの話を断るだけの胆力だってある。
この家で暮らす価値は今も彼にとって同じだろう。
この家で実の母の帰りを待ちたいはずだ。
私は真剣に彼と一緒にいたいと願うけれど、リーフェルトくんが断る余地も残す。
下手にこちらから別れを告げるより、こうした方が彼の気持ちを前へ向けられるだろう。
これは大人の優しさなんかじゃない。
シビアな選択を、幼いリーフェルトくんに迫る。
「私と一緒に来てほしい、リーフェルトくん」
彼は、一方的に家族から捨てられるかわいそうな子供じゃあない。
家族から一緒にいたいと願われながら、自分の意思で村に残るかどうか決意をする、一人の自立した人間になる。
「……僕……は……」
「……うん」
苦悩している。
私が話し始めてから、ずっと耐えるような表情をしていた。
拳も握り込んでいたのだろう。
また家族に置いていかれるのだと身構えていたのだ。
だけど今、彼には選択肢が突きつけられた。
私は、リーフェルトくんに悲劇の主人公になる選択をさせなかった。
「……どう……したら……」
「わからない?」
「…………うん」
泣きそうな、ううん。もう目尻に涙が溢れていて、泣いている。
「……ごめんね」
私は優しくその涙を拭ってあげた。
「すぐに答えを出さなくていいんだよ。リーフェルトくんの気持ちが大事だから。それに、まだ時間があるわ。私はこれから村を、この家を出ていく準備をする。リーフェルトくんのための薬も幾らか残しておく。とにかく私にできる限りのことをしていく。その間に答えを決めて。……答えを出す期限も決めてしまいましょう。十日後。明日を一日目として十日だけ待つ。それまでにリーフェルトくんなりの答えを出して。その答えによって、そこから準備することを変えるから」
私は涙を拭ったそのまま彼の頬に手を添えた。
「たとえ、リーフェルトくんがこの村に残る決断をしたとしても。ここで私たちが離れ離れになってしまうとしても。離れていても、私たちはもう家族よ。それだけは信じてほしい」
「…………うん」
こうして私は十日間。リーフェルトくんに考える時間を与えることにした。
もちろん、その十日間をただ待つだけにはしない。私は村を出ていく準備を始めた。