恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜

決まった出張とざわつく心

「……え、高峰さんと、私ですか?」


顔を上げた瞬間、思わず声のトーンが上がってしまった。

「うん。もともとは高峰くん一人の予定だったけど、佐伯さんも一緒に組ませてみることにした。今回が初めての出張だろ?高峰くんのサブとして、サポートに入ってもらうのが一番いいと思って」


課長の声は事務的で、淡々としていて。
それが逆に、気持ちを揺さぶった。


──そうだよね。仕事なんだから、当たり前。


ちゃんと、わかってるつもりだった。



「……わかりました」


そう返すので精いっぱいだった。


(……高峰くんと、二人で出張)


少し前の私なら、舞い上がるほど嬉しかったと思う。


ほんの数時間でも一緒にいられることが、特別に感じられた。
でも、今は──ただ、心がざわつく。




「佐伯」


帰り際、高峰くんが声をかけてきた。


「出張、初めてだよな?よろしく」


変わらない優しい口調。
だけど、昔みたいに素直には笑えなかった。

「……うん。よろしくね」


視線を合わせるのが、なんだか怖かった。


「佐伯ってさ──」

「え?」



不意に名前を呼ばれて、顔を上げる。
高峰くんの視線と重なった。


そこには、なにか言いかけたような、迷いのような色があったけれど──



「いや、なんでもない。出張のことでわかんないことあったら、聞いて」


「……うん、ありがとう」


結局、彼が何を言いたかったのかはわからなかったけど。


少しだけ、胸がざらついたまま残った。


(──私、今、どんな顔してたんだろ)


高峰くんの優しさは、きっと変わっていない。


だけど、その距離の中に、“特別”があるとは思えなかった。



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