【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
「ほら、できた」
トレーを持ってきた黒瀬が、有紀の前に皿を並べていく。
テーブルの上には、ちょうど焼き上がったトーストとスクランブルエッグ、ミニサラダにヨーグルトとフルーツ。
シンプルだけど、彩りまでちゃんと考えられているのが分かる。
「……すごい。ちゃんとしてる」
「“ちゃんと”ってなんだよ」
そう言いつつも、どこか嬉しそうに笑っている。
「だって……意外だったから。黒瀬くん、料理するんだね」
「料理ってほどのもんでもねーけど。」
そう言って黒瀬は対面の席に腰を下ろすと、さりげなくフォークを差し出した。
「食え。冷める」
「……ありがとう」
小さく呟いて、ひとくちパンを口に運ぶ。ほんのりバターの香りがして、美味しかった。
「わぁ…スクランブルエッグすごい。焼き加減、絶妙…ホテルのみたい。」
「美味い?」
「うん!」
そう言って笑顔で答え顔をあげると目が合った。その目が、優しすぎて、ドキッとする。
(……こんなふうに、朝から一緒にごはん食べるなんて)
なんだか、夢みたいだった。
まるで“恋人”みたいな空気が、静かにテーブルを包んでいる。
──でも、そうじゃない。
(……わたし、黒瀬くんと正式に付き合ってるわけじゃ、ないのに)
それに、まだ、高峰くんのことが完全に消えたわけじゃない。
昨日のデート。
ちゃんと向き合ってくれようとした高峰くんの姿が、ふいに胸をよぎる。
ずっと好きだった人。
振り向いてもらえないと思っていた人。
でも、黒瀬くんと一緒にいる時間の中で、気づいてしまった。
(わたし、もう、心が傾いてる)
気づかないふりは、もうできない。