【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
「ほんとに送んなくていいの?」

「うん、駅近いし。歩いて帰る」



支度を終え、靴を履いていると、黒瀬はふっと笑った。



「……じゃあ、また会社で」



そう言って、ドアノブに手をかけたとき──



「待って」


くいっと手首を掴まれる。

 
「……え?」


不意に引き寄せられて、唇が重なる。


「──っ……!」


あまりにも自然に、何の前触れもなく。



あたたかくて、でも一瞬で終わるキスだった。


見つめ合う間もなく、彼はすっと唇を離すと、いつもの調子で言った。


「……また、会社でな」


それは、何気ない顔をした“いつもの黒瀬くん”の笑顔だった。


(……うそ。そんな顔で、そんなことするのずるい)


キスの余韻がまだ胸の奥に残っているのに、彼はもう普段どおりの顔をしていた。



「ちょ、ちょっと……今の……」

「なに?」

「……っ…」



頬が熱くなるのを感じながら、視線をそらす。



でも、言葉を返す余裕なんてなくて、そのままドアの外に出た。


足元が少しふわふわする。



エレベーターの中でも、さっきのキスの感触が頭から離れない。



(……また会社で、って。何事もなかったみたいに言うし……)



だけど、その一瞬だけは、たしかに“彼のもの”になった気がして。



(……ほんと、ずるいなあ)



火照る頬に、日曜の朝の空気が、少し冷たく感じた。









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