【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
コーヒーを淹れていると、背後から低く静かな声が落ちてくる。



「おはよ」

「っ……」



その瞬間、心臓が跳ねる。



(黒瀬くん…)



やっぱり、いつもの調子でそこに立っていた。


「……おはよう」


努めて普通に返すけれど、さっきよりずっと鼓動が速い。


ふと視線を感じて、目が合う。



……そのとき、一瞬だけ。


彼の目が、有紀のシャツの襟元あたりに触れた。


まるで──
あの夜の痕跡を、思い出すように。



そして、すぐに表情を戻し、いつも通りの柔らかい笑みを浮かべた。



(……ずるい)



まるで何もなかったように接するのがうまいくせに、


たったひとつの視線だけで、全部思い出させてくる。


「黒瀬くんも、コーヒー飲む?」


「うん。じゃあ、お願い」


さらりと答えて、隣に並ぶ。


肩が触れそうな距離に立たれて、それだけでドキッとする。



「佐伯、顔に出すぎ」

「っ……!?」


耳元、すぐ近くで囁かれる。



「……ちゃんと、隠して」



小さな声。でも、芯に届く。


さりげないくせに、心をかき乱してくる。


「う、うるさいな……はい、コーヒー」

「サンキュ」


カップを受け取ると、何事もなかったかのようにくるりと離れていった。



背中越しに去っていくその仕草まで、やけに自然で。



(……ほんと、タチ悪い)



ほんの一瞬のやり取りだけで、
心をかき回していくなんて。




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