【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜






いつものようにメールを整理していると、課長の声が背後から聞こえた。


「佐伯さん、高峰くん。ちょっと、会議室まで来てくれる?」



画面から顔を上げて、高峰と目を合わせる。


(……新しい案件の話かな)


そう思いながら、ふたりで会議室へ向かう。
 

部屋に入ると、課長がすでに資料を広げて待っていた。



「ふたりには、新しいプロジェクトに入ってもらおうと思ってる。前回の出張、クライアントからすごく評判がよかったから。佐伯さんも高峰くんも、対応が丁寧で話しやすかったって」


「ありがとうございます」



ぴしっと背筋を伸ばして返すと、隣の高峰も微笑みながら軽くうなずいた。



「俺も、佐伯さんと組みやすかったです。また一緒に動けるの、嬉しいです」



さらりとした言葉なのに、向けられる視線が少し柔らかくて、有紀はとっさに目をそらす。


(……気まずくなんて、ない。ないはず)



ちゃんと向き合おうと思っていた。でもまだ、その“ちゃんと”が自分の中で定まっていない。


それでも──仕事は別だ。



「ありがとうございます。プロジェクト、頑張ります」


「頼もしいね。じゃあ、さっそくだけどクライアントとの打ち合わせに向けて他資料を準備してくれる?できたら一度チェックさせて」


「了解です」



ふたり揃って返事をすると、課長は満足げに頷いた。



会議室を出たあと、高峰が隣で少し笑った。



「また、佐伯と組めて嬉しいよ。今回もいい仕事しよう」



その一言に、有紀も思わず微笑んでしまう。


「うん。よろしくお願いします」


(今は、それだけでいい)



自分の気持ちにまだ答えを出せなくても。


仕事に向き合う時間だけは、まっすぐでいたい。


私がここにいる意味は、ちゃんと成果で示したいから。


(よし、集中しよう)



新しいプロジェクトのはじまりとともに、有紀の中にも静かな決意が芽生えていた。
 



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