【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
会議室に集められたのは、営業部の中でも選抜されたメンバーだった。
「今回の新規プロジェクト、メイン担当は──高峰と佐伯。よろしく頼む」
課長の言葉に、室内の空気がざわつく。
思わず隣を見ると、高峰がこちらに目を向け、穏やかに頷いた。
(……わたしで、本当に大丈夫かな)
不安がなかったわけじゃない。
けれど、それ以上に思った。
(やるしかない)
前の出張を経て、自分にも少しずつ「できること」が増えてきた気がしていた。
実績を認めてもらえたのは、正直うれしい。
「佐伯、一緒に頑張ろうな」
「……うん。よろしくね」
まっすぐな目でそう言ってくれる高峰に、胸が少しだけ痛む。
でも今は、気持ちよりも優先するべきことがある。
恋愛を考える余裕なんてないくらい、忙しい日々が始まろうとしていた。
午前中は社内ミーティング。午後は資料作成。
週末には、クライアント向けのプレゼンが控えている。
高峰と資料の修正点を確認し合い、意見をすり合わせながら、ふと考える。
(やっぱり、この人は仕事ができる)
だからこそ、余計に悩んでしまう。
(ちゃんと返事してないまま、こんなふうに一緒に働いてていいのかな)
思わせぶりなことはしていないつもりだった。
でも、あの日の「俺にもチャンスある?」という言葉は、今も胸に残っている。
(……自意識過剰かな)
そんなふうに思う自分が、また少し嫌になる。
(でも、中途半端なままなのも、もっと嫌)
誰かの気持ちを、軽く扱いたくない。
誠実に向き合いたい──その思いだけは、嘘じゃない。
「佐伯、大丈夫? なんか、ぼーっとしてた」
「えっ、あ……ううん。ちょっと考えごとしてただけ」
「そっか。無理すんなよ?」
肩の力を抜いた優しい声が、胸の奥で静かに響いた。
(……ごめんね、高峰くん)
その言葉を、何度も心の中で繰り返す。
でも今は、目の前の仕事に集中しなきゃ。
キーボードに指を置いて、深く息を吸い込む。
──ちゃんとやろう。
任されたからには、最後まで全力で。
自分を奮い立たせるように、再び画面に向き合った。
タイピングの音だけが、静かにデスクに響いていた。