【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
仕事が終わり、駅近くのカフェ。


平日の夕方とは思えないほど、静かで落ち着いた空気が流れていた。


約束の時間より少し早く着いた有紀が席に座っていると、まもなく高峰が現れる。


「ごめん、待った?」

「ううん、今来たとこ」


そう言って向かい合って座ると、ふと目が合った。


その瞬間、あの日の夜——公園での出来事が、胸によみがえる。


(ちゃんと、伝えなきゃ…)


そう、思っていたのに。



「……あのね、わたし……」



色々紡ぐ言葉を考えてきた。



けれど、言いかけて、有紀は言葉を詰まらせた。



どうしても、うまく続けられない。



(傷つけたくない…。優しい、この人を)



そう思うと、ますます言葉が出てこなかった。



そんな有紀を見て、高峰が、驚くほどやわらかい声で口を開いた。


「佐伯、大丈夫だよ」

「……え?」

「もう、わかってるから。佐伯の気持ちが、俺にはないってこと」


まっすぐな瞳でそう言ってから、少しだけ苦しそうに笑う。


「なんとなくさ、前は……佐伯が俺のこと、ちょっとは意識してくれてんのかなって思ってた」

「……うん」


(気づいてたんだ……)


その事実に、少し驚きながらも、有紀は小さく頷いた。


「わたし、高峰くんのこと、ずっと好きだったよ」


そう口にした瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。
言葉にしたことで、こみ上げてくる何かがあった。


「……仕事に真面目で、どんな時も落ち着いてて、ちゃんと人を見てくれてて……。
新人の頃、緊張と不安でいっぱいだった私に、優しく声をかけてくれたよね。」


「すごく救われたんだ。一緒にいるだけで、安心できる人だなって、ずっと思ってた」



そう、ずっと想ってた。


叶わないと思ってたけど、側にいられるだけでよかった。


それくらい、好きだった。


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