【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
「ん…っ」
玄関に舌の絡み合う湿った音が響く。
唇を重ねたまま、黒瀬の指先がゆっくりと有紀の髪をすくう。
唇がはなれると、
熱のこもった呼吸が交差して、ふたりの距離が、もう、引き戻せないほど近くなる。
ぽすっと黒瀬の胸元に額を預けた有紀が、ぽつりと呟いた。
「……ごめん、ちょっと、シャワー……浴びたい、かも」
その言葉に、黒瀬がゆっくりと視線を落とす。
「……いいけど」
短くそう返しながら、ニヤッと口元をゆがめた。
「一緒に入る?」
以前も聞いたことあるセリフ。
ふざけてるような、でもどこか探るような声音。
いつもなら、「は? 何言ってんの」と軽く受け流すはずの冗談に、有紀は少し間を置いて──
「……うん」
小さく、でも確かにうなずいた。
目を逸らしたまま、ほんのり赤くなった頬。
その一言が、黒瀬の表情を止めた。
「……え、今、“うん”って……」
「……っ、忘れて。やっぱナシ」
「まてまて。今のナシにすんな」
黒瀬が、有紀の顔をのぞき込む。
「……前は断ったくせに、今日はいいんだ?」
「……うるさい」
ぽつりと返す。
恥ずかしくて、顔を逸らすけど、耳まで赤く染まっている。
黒瀬はその様子を見て、少しだけ驚いたように瞬きをして──
「……っ、マジか」
思わず笑みを噛み殺した。
「……ぜってー断られると思った。
ちょっと、嬉しすぎて…やばいっ」
「な、なにそれ。」
そう言いながらも、有紀の口元もかすかに緩んでいた。
たぶん──これが、ふたりにとっての「小さな変化」だった。