エリート弁護士は秘密の双子ごと、妻を寵愛する
 彼は面談を終えたあと、ちょうど退社の時間だったらしい。
 私に相談室の中で待つように告げてから数分後。
 ビジネス鞄を手に、身支度を整えて戻ってきた。

「あ、あの……」
「送って行こう」
「弁護士さんに、そんなことはさせられません……!」

 私は当然固辞したが、弁護士さんは当然のように指先を絡めて歩き出してしまう。
 繋いだ手から伝わるじんわりとした温かさに面食らっている間に、夜風が吹き荒ぶ外へ連れて来られる。

 ――無償のボディガード。偽彼女。
 想像もしていなかった関係を弁護士さんと構築する羽目になった驚きにより、通い慣れた道に到着するまでは一言も話ができなかった。

 ――もうすぐ、自宅に着いてしまう。
 別れる前に、ちゃんと聞かなくちゃ。
 彼が自分によくしてくれる、理由を……。

「どうして、偽……」
「静かに」

 大門寺さんに直接問いかけようとしたところで、待ったがかかる。
 彼は唇に人差し指を当てて声を顰め、後ろを気にする素振りを見せた。

「あいつに聞こえる」
「あ……!」

 私は駅から自宅に向かって歩いているのに、後ろからピッタリとあとをつけてくる不審者のことをすっかりと忘れていた。
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