エリート弁護士は秘密の双子ごと、妻を寵愛する
「ここからどんなに頑張っても無理って言うなら、仕方ないよね。あたし、諦める」
「ああ。君の幸せを、願っている」
「お世辞でも、あんまりそういうことは言わないほうがいいよ。もっと、好きになっちゃう」

 葵はどこか困ったように、疲れたような表情を見せる。
 彼女に好意があれば会話を続けるが、これ以上面と向かって話し合ったところで僕にはなんのメリットもない。

 ――無言を貫けば、彼女はようやく踏ん切りがついたのだろう。

「ばいばい」
「元気で」

 取り繕った笑顔でこちらに向かって手を振ると、そのまま来た道を戻って行った。

 ――嵐のようだったな……。

 僕はようやくひと息つけると、弁護士事務所に戻って業務を続ける。

 ――予定外の出来事が起きたせいで、どっと疲れてしまった。
 最愛の人と顔を合わせて幸せな気持ちに浸らなければ、やっていられない。

 そう思い立った僕は終業後、彼女とアポを取ろうと試みる。
 しかし――。

『この電話番号への通話は、お繋ぎできません』

 携帯電話からは無機質な機械音が流れるだけで、一向に愛しき女性の声は聞こえてこなかった。
 電話が駄目ならメールならばどうかと文章を送信したが、そちらもエラーが返って来てしまう。
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