すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「悠里ちゃんの迷いも、わかっているつもりよ」

 私の怯えを察したのか、叔母は一段と穏やかな表情で言う。

「だけど、その方だって自分の立場が悪くなるような行動はしないはず。悠里ちゃんと会うときには、不貞を疑われるような事態にならない配慮くらいするわよ」

 たしかに、そうかもしれない。

「それにお義兄さんと懇意にしていたのなら、彼は正義感が強く真っすぐな性格だって理解しているじゃないかしら? それとも、あなたが心を許した相手は、真実を知ろうとせずに端から疑ってかかるような人なの?」

「柴崎さんは、そんな人じゃないわ」

 とっさにそう口走り、ハッとする。
 口もとを手で覆った私に、叔母はにっこりと微笑みかけた。

「それなら、問題ないわね。必要なら、私が間に入ってもいいわ。だから、悠里ちゃん。一度でいいから、きちんとお話してみてはどう?」

 不安なことはたくさんある。
 彼になにを言われるのか。それに、渡したいものとはなにか。
 なにひとつ想像がつかず怖さもあるけれど、逃げてばかりではいけないともわかっている。

「……うん。連絡を、入れてみる」

 今度こそ、柴崎さんと顔を合わせるのは最後になるかもしれない。

 彼との縁は、とっくに切ったはずだった。それにもかかわらず再び胸が痛むのは、私がまだ彼に想いを残している証拠。
 もう一度柴崎さんと会うことで、きちんと吹っ切れるだろうか。

 遅くなりすぎないうちに、光太を連れて帰宅する。彼が寝入ったところで、勇気を出して柴崎さんにメッセージを送った。

【可能なら、明日の夜に会いたい】

 ベネチアには短い滞在のようだから、早急な約束になるのも仕方がないのだろう。
 気持ちが落ち着かない。今夜は早々に光太の眠る隣に体を横たえて、小さな体を抱きしめながら瞼を閉じた。


< 105 / 183 >

この作品をシェア

pagetop