すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 食事中は光太に触れず、会社の役員としての仕事でイタリアに滞在しているなど、柴崎さん自身のことを話してくれた。
 それからベネチアの街についても話題にし、気軽な内容に私もわずかに緊張を解いていて応じる。

 空気が和んできたところで、彼は私の話をもっと聞きたいと踏み込んできた。
 少し迷った末に、今は家具デザイナーをしている叔母の秘書のような仕事をしているとだけは明かした。

「ひとまず、頼る人がいるのなら安心だ」

 彼は父に対する恩義から、ひとりになってしまった私の心配をしていそうだ。そんな必要はないのにと思いながらも、口にはしなかった。

 デザートを食べ終えて柴崎さんが居住まいを正したところで、いよいよ本題かと再び緊張が高まる。

「俺がいない間に、悠里は雄大さんを亡くして……いろいろと大変だったと聞いている。そん時にそばにいられなくて、申し訳なかった」

 含みを持たせるような口ぶりに、光太のことを暗に言っているのか、それとも横領疑惑の話を知っているのかと動揺する。

「あ、あくまで川島家のことなので、柴崎さんがそこになにかを感じる必要はないですから」

 頭まで下げられてしまい、慌てて否定する。

 いろいろな意味で関わりのあった相手だから、彼は後味の悪さを感じているのかもしれない。
 気にしないでほしいと伝えたつもりだったが、柴崎さんは私の言葉に切ない表情になる。
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