すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「これまでの俺の振る舞いに、悠里が腹を立てるのも当然だ。十分な関係づくりもできないまま、長期の海外出張に出た。忙しさにかまけて、連絡すらできていなかった」

 そうじゃないと言い返そうにも、涙が滲んで声にならない。

「悠里は俺を見限っているのかもしれいが、それでも君の信頼を取り戻したいんだ」

 取り戻した後は、親密な関係になる前のように、父の話を懐かしく語り合う友人に戻りたいというのだろうか。
 そんなこと、私は望まない。

 今日こうして顔を合わせたことで、やっぱり自分は柴崎さんへの好意をなくせていなかったと自覚させられた。
 そんな気持ちで再び距離が近づけば、自分が傷つくだけだ。

「そ、それより、渡したいものって?」

 話の流れを変えたくて、そういえばと切りだす。今はもう、少しでも早くこの場を去りたい一心だ。

「それは、今の悠里にはまだ渡せないとわかった」

 どういう意味かと、首をかしげる。

「光太君が待っているだろうから、あまり遅くなってもいけないな」

 けれど彼は、詳しく教えてくれなかった。

 それよりも、再び子どもの名前を出されてあからさまにうろたえてしまう。

 そろそろ出ようと促されて席を立つ。

 お店の外に出たところで「ひとりで帰れるから」と、送ると言う彼を制した。

「わかった。悠里、また連絡するから」

 それに明確な返しをしないまま、彼に背を向けて歩きだした。
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