すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 最後に顔を合わせて以来、もうずいぶん時間が立っている。父の死を直接伝えていなかった上に、なにも言わずに姿を消した私の態度は相当不義理だった。
 それでも彼は腹を立てるでもなく、私を気遣ってくる。

 たった一度だけ肌を重ねたからといって、彼が恩義を感じる父はもういないのだし、私なんて放っておいてもいいはず。

「どうして、なのかな……」

 誰に言うとでもなく、疑問が口を突いて出る。
 彼にとって私は、取るに足らない存在のはず。父とのつながりがあったから縁づいた、いわばおまけのような関係だ。

「無責任なことは言えないけれど」

 慎重な様子で前置きをしつつ、叔母が続ける。

「なにか、行き違いでもあるんじゃないかしら? 私は悠里ちゃんからの話しか聞いていないから、断定はできないけど。でももし家庭があるのだとしたら、わざわざ過去を振り返って気持ちを伝えてくるもの?」

「それは……」

 たしかに違和感はあるものの、それ以前に彼は誠実な人だ。

 仕事がらみで婚約の話が持ち上がっていたのだって、伝えようにも私はスマホを解約していたからできなかっただけかもしれない。
 中途半端な別れ方をしてしまったから、彼はこうして罪滅ぼしのような感覚で私に接してくるのだろうか。

「私、柴崎さんともう一度話してみる」

 もしそうなら、私にかまう必要はないと伝えるべきだ。そこにこちらの気持ちなんて関係なくて、私のせいで彼の家庭にヒビが入るようなことがあってはいけない。

「忘れないで、悠里ちゃん。私とセルジオは、いつだってあなたの味方だから」

「ありがとう」

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