すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 翌日も、柴崎さんから小さな花束と光太でも食べられるお菓子が贈られてきた。
 そのお礼をメッセージで伝えたところ、彼からは毎日の退勤時間を尋ねられた。きちんと会って話をしたいと思っているから、明かすことに問題はない。

【明日、顔を見に行く】

 そんな返事があった通り、仕事を終えて外に出ると柴崎さんが待っていた。

「悠里」

「すみません、待たせていましたか?」

「いや。俺が勝手に来ただけだから」

 彼の穏やかな笑みに、鼓動が速くなる。それを悟られたくなくて、そっと視線を逸らせた。

「本当なら車でと言いたいところだが……」

 人工島であるベネチアの街は道幅が狭く、車が通れない道が多い。その代わりに網の目のように運河が流れており、水上バスが主な交通手段になる。
 私もよく利用しているが、幼稚園や自宅はここから近くて徒歩で行ける。

「すぐ近くの保育園に、光太を迎えに行きます」

 話す時間はそれほどないだろう。

「付き合うよ」

 私が歩きだすと、道が狭いため柴崎さんはその後ろに続いた。

「あの、花とか光太のものとか、ありがとうございます」

「いや。迷惑ではなかった?」

「いいえ。でも、もらう理由がないので。困惑したというか、手間をかけさせて申し訳ないというか」

 金銭的なこともそうだが、彼は仕事でこちらに来ているのだから多忙に違いない。

「それならよかった。俺がしたかったからやったことだ。気にせず受け取ってくれるとうれしい」

 そうまで言われたら、突き放すのも悪い気がしてくる。
 イタリアでの滞在は、十日ほどだと言っていたはず。終わりが見えているのだから、ここは素直に受け入れておこうと思う。

「こっちでの生活に、不便はしていないか?」

 なんだか保護者のような質問だ。
 父が生きていた頃と変わらず、彼は私を気にかけてくれるらしい。
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