すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「言葉もだいぶ覚えられたし、おかげで仕事の幅も広がって。今は取引先にひとりで出向く機会も増えたんです」

「悠里はすごいな」

 なにが?と、背後をチラッと振り返る。

「どんな状況でも、前を向いて自分の足で歩いていく」

「それは……」

 私だって、叔父に実家も職場も追い出されたときはどうしていいのかわからず潰れそうになっていた。妊娠が発覚したときだってそうだ。

 ここまでやってこられたのは叔母たちの協力があったのと、愛した人との子を守りたい一心からだ。

「それなのに、俺は……」

「え?」

 後悔の滲む彼の口調に、戸惑う。

「いや。なんでもない」

 眉根にしわを寄せた柴崎さんだったが、振り向いた私と目が合うと、すぐにいつもの穏やかな表情を浮かべた。

「ここです。少し待っていてください」

 タイミングが悪く、光太は遊び疲れて寝入ったばかりだったようで機嫌は相当悪い。泣きながら手足をばたつかせ、背も反らせている。
 用意していた抱っこひもには上手く入れられず、ひとまず腕に抱き上げた。

 そのまましばらくなだめてみたが、眠いのに上手く寝られずますます機嫌が悪くなる。

「悠里?」

 光太のぐずりが激しさを増す中、長く戻らないことを心配したようで、柴崎さんが顔を覗かせた。

「待たせてごめんなさい」

 手には荷物も抱えているし、抱っこひもに入ってくれないと不安定になって怖い。
 光太を必死に支えながら視線を柴崎さんに向けると、彼はその惨状に慌てて私に近寄ってきた。
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