すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「ちょっといい?」

 私がうなずくと、柴崎さんは光太をひょいっと抱き上げた。

「小さな子と接する機会は、ほとんどないんだけどね」

 言葉通り、彼の手つきは少しぎこちない。
 自分の顔の高さまで抱き上げると、涙でぐちゃぐちゃな顔をした光太に、彼は眉を下げた。

 彼が光太の父親だとわかっているからか、こうしてふたりが並ぶとよく似ている。柴崎さんに気づかれないかと不安になったが、彼が特別に反応を見せることはなかった。

「ほら、大丈夫だ」

 大きな手に支えられて、安定感は抜群だ。光太が多少ばたばたしても余裕がある。
 光太を片手で支えて左肩にもたせ掛け、右手で背中を優しく叩く。

 もとから人見知りをしない子だし、泣き疲れて自分を抱っこしている相手が誰だかわかっていないのだろう。いつもとは違う腕の中にありながら、光太は徐々におとなしくなっていった。

「寝ちゃった」

 まだぐすっと鼻を鳴らしているものの、体から力がすっかり抜けて完全に彼にもたれている。
 ようやくだと、ほっとした。

「少しでも悠里の役に立てたのなら、よかった」

 ふわりと微笑まれて、鼓動が大きく跳ねる。

「あ、ありがとう。光太を受け取るね」

「いや。起こしてしまうとかわいそうだから、このまま連れていくよ」

「でも、スーツが汚れちゃう」

「それくらいかまわない」

 なんてことのない顔をした柴崎さんが、「行こうと」と促してくる。

 いつまでもこの場にとどまっているわけにもいかず、そろって歩きだした。
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