すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 話をしているうちに、自宅に到着する。
 光太を受け取ろうとしたが、彼は首を横に振った。

「荷物もあるから大変だろ? 悠里さえよければ中まで俺が運ぶよ」

 思うところはあるものの、正直に言えばありがたい申し出だ。

 それに、ここまでしてもらって玄関先で帰ってもらうのは失礼だ。大したおもてなしはできないけれど、お世話になったのだからお茶くらい出すべきだろう。

「ありがとうございます」

 小さな子がいれば、隅々まで手が届かないのは仕方がない。もとから物は少ないから、だらしない散らかし方はしていないはず。

 扉を開けると、すぐにダイニングが見える。
 イタリアでは室内でも土足で過ごすのが一般的だが、光太がハイハイで動き回ることもあってうちでは室内履きを用意している。
 柴崎さんの分を差し出し、自身も靴を履き替える。

 光太の靴も脱がせたところで、彼が身を固くしていることに気づいた。

「……これは?」

「面倒でごめんなさい。動き回る光太のことを考えて、室内履きを使っているの」

「いや……どうして男物のサイズが?」

「ああ、セルジオもここに顔を出すから」

 そう返すと、柴崎さんは顔のこわばりを解いた。

 プライベートな空間を見せることが恥ずかしくて、彼を見ないようにしながら中へ進む。
 住んでいるのは1DKのこじんまりとした部屋だ。幼い光太と暮らすのに不便はないし、お互いの気配を感じられてちょうどいい。

 ダイニングを横切り、隣の寝室の扉を開ける。
 ベッドを軽く整えて、その上に光太を降ろしてもらった。

 汗で額に張りついた前髪をそっとかき上げたが、起きる気配はまったくない。

 体を起こして振り返ると、柴崎さんは物珍しそうに室内を見回していた。
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