すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「向こうへ行きましょう」

 ひとまずダイニングへ促し、椅子に座ってもらう。
 それから手早くコーヒーを用意した。

「手間をかけさせて、すまない」

「ううん。ここまで光太をお願いできて、ずいぶん助かったし」

 そう答えたきり沈黙し、ごまかすようにカップへ手を伸ばした。

「時間が大丈夫なら、少し話をしたい」

 今日はそんなつもりじゃなかったが、せっかくこうして顔を合わせたのだからちょうどいい。

「俺がアメリカへ渡ってからの、悠里の話を聞かせてくれないか?」

「私の……」

 話せることと、話したくないことがある。
 逡巡しながら視線を周囲に流し、それからゆっくりと口を開いた。

「柴崎さんが渡米してしばらくした頃、急に父の体調が悪くなって。先生からは間質性肺炎って診断されて、それほど経たないうちに……」

 なにをどう言えばいいのか。そもそも彼は、どこまで知っているのか。探りながら言葉を紡ぐ。

 けれど、父が亡くなった以降は会社の横領疑惑だとか妊娠のこととか、話せる内容ではなくて口をつぐんだ。

「ここでの暮らしで困っていることはないか? 必要なものとか」

「とくには……」

 余裕のある暮らしをしているわけではないものの、叔母たちのサポートもあってなんとかなっている。
 先のことを考えれば不安は尽きないが、それを彼に言っても仕方がない。

「なにかあったら、いつでも頼ってほしい」

「え?」

 お相手のいる……家族があるかもしれない異性に、頼れるわけがない。

「悠里?」

「……そんな、無責任なことを言わないで」

 こうして彼と会うことだって、本当は小さな罪悪感を抱いている。疚しさは微塵もないけれど、相手の女性が知ればよく思わない。

 それに、彼とは父を介した関係でしかない。たとえあの頃は私を愛してくれていたとしても、もう過去の話だ。一度関係を持ったからと、責任を感じる必要なんてない。
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