すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 途中でふらつくと、柴崎さんが思わず立ち上がりかける。けれどその後も光太がめげずにがんばる様子を見て、彼はそわそわしつつも身を引いた。

「まんま!」

 どうやらひとり遊びに飽きて、抱っこをしてほしかったらしい。
 抱き上げて椅子に座ると、私の顔に触れたり髪を引っぱたりし始めた。

「かわいいな」

 光太に気を取られていたところに聞こえてきた彼のつぶやきに、ぱっと顔を上げる。

「くりくりとした目が、悠里にそっくりだ」

 ドクリと鼓動が跳ねる。

 彼にとってはなにげない言葉だったかもしれないが、隠し事をしている私は途端に落ち着かなくなる。

 それよりも、私から見たらシュッとした形のよい鼻とか、全体的にきりっとした雰囲気は柴崎さんそのものだと思う。

「ママが大好きなんだな」

 私の焦りに気づかないまま、彼は穏やかに目を細めて光太を見つめる。
 打ち明けるのなら今なのかもしれないと、ごくりと喉を鳴らした。

「こ、光太の父親は……」

 ハッとした彼の視線が私に向く。
 思わず目を逸らしそうになったが、頬に触れる小さな手を握って勇気をもらう。

「この子の父親は……柴崎さん、です」

 それだけ言いきって、光太の柔らかな髪に顔を埋めた。
 
 彼がどんな反応をするのか、見るのが怖い。
 私を愛していると言ってくれたし、光太をかわいいと思ってくれている。
 でも、彼が子どもを望んでいるのかはわからない。それに、自分の知らないところ勝手にこの子を産んだ私を怒っているかもしれない。

 もし拒絶されたらと、恐怖に襲われて顔を上げられなくなった。
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