すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「悠里」

 わずかに掠れた声で呼ばれる。けれど私は、彼の方を見られないまま。

 カタリと椅子をずらす音が響き、光太を抱きしめる腕に力がこもる。柴崎さんが静かに近づいてくる気配に、身を固くした。

 息を潜めていたそのとき。柴崎さんは、光太とふたりまとめてふわりと抱きしめてきた。
 驚き、戸惑って、ビクッと肩が跳ねる。

「悠里、すまなかった」

 その謝罪はどういう意味なのかがわからず、ぎゅっと瞼を閉じる。

「知らなかったで、済まされる話じゃない」

「せ、責任とか、なにもいらないから」

 震える声で反射的に言い返すと、彼は「違うんだ」と困ったように言う。

 しばらくして、柴崎さんが体を離した。
 場の緊張を感じ取ったのか、光太も落ち着かない様子だ。「まんま」と言いながらひたすらペタペタと私の頬に触れ、ちゅっと口づけてくる。それはまるで慰めてくれているようで、頭をなでてやる。おかげで少し落ち着きを取り戻した。

「悠里」

 隣に立つ彼を、今度こそ見上げる。

「俺の子を産んでくれて、ありがとう」

「……勝手をして、怒っていないの?」

「そんなわけない。俺の方こそ、知らなかったとはいえあまりにも無責任すぎた。すまなかった」

 頭を下げる彼に、やめてほしいとお願いする。

「悠里をひとりにした上に大変なときになにもしてやれず、最低だった」

「それは、私がひとりでも育てていくって勝手に決めて、あなたに知らせることもしなかったから」

 おまけに、連絡先も変えて姿を消している。
 彼がどうしようもできなかったのは当然だ。だから柴崎さんは悪くないと伝える。
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