すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「悠里」

 ひとりで必死になってしまい、肩に手を添えた彼になだめられる。

「俺の子を産んで、育ててくれて、ありがとう」

 なにかに耐えるように、柴崎さんがぐっと唇を噛みしめる。
 険しさを感じる雰囲気だが、怒っているわけじゃないことは伝わってくるから心はざわめかない。

「悠里をはじめ、周囲にいた大人が愛情いっぱいに育ててくれたから、こんなにも人懐っこくて愛らしい子に育ったんだな」

 彼が光太に手を伸ばすと、少しに戸惑いもなくその指を光太が握った。

 一拍遅れて、じわりと涙が滲む。
 ずっと、怖かった。

 彼に迷惑をかけたくないなんてもっともらしい理由をつけて、私はすべてから逃げ回っていた。ただひたすら、柴崎さんに幻滅されたくなかった。

 彼との縁が切れたとしても、もう二度と会うことがなかったとしても、私のことを親しくしていた友人の娘とくらいは覚えていてほしかった。

 こらえきれず、頬を涙が伝う。
 彼はそれを親指で拭うと、今度はさっきよりも強くふたりまとめて抱きしめてくれた。

「ごめん、なさい」

「悠里が謝ることなんて、なにもないから」

 ようやく私が落ち着きを取り戻したのを察して、岩崎さんが体を離す。

 それから彼は、「もう一度、光太を抱かせてほしいと」とお願いしてきた。その呼び方が、実の息子に対する親しげなものに変わっている。

「どうぞ」

 彼の方に光太を向ける。
 セルジオが頻繁に抱っこをしてくれるから、光太も慣れたもの。実の父親とはいえ、数回会っただけの大人の男性を相手に自ら腕を伸ばした。
 その反応に、柴崎さんが目じりを下げる。
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