すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「光太」

 片方の腕に光太を抱き、頭をなでてやる。それから彼は、ぷくぷくした光太の頬に自身の頬を擦りつけた。

「きゃあ」

 その触れ合いが楽しかったらしい。
 光太が興奮した声をあげながら手をバタバタさせる。頬や頭にその手があたっても、柴崎さんは嫌な顔ひとつしない。むしろ、うれしそうな笑みを浮かべ続けている。

「ノンン!」

 そのうち、光太が大きな声を発した。

「ううん、光太。ノンノじゃなくてパパだよ」

 区別がつかず〝おじいちゃん〟と呼ぶ光太に、少し照れくさいけれどちゃんと訂正する。目を見開いた柴崎さんが、くしゃりと表情を崩した。

「光太、今まで一緒にいてやれなくてごめんな」

 わずかに語尾が震えている。光太の髪に顔を埋めているため彼の表情はうかがえないが、その心情は察せられた。

 再び玩具に興味を示した光太を降ろしてやる。
 それから彼は、光太の様子を見られるように私の隣に椅子を移動させて座った。

「俺は、悠里と結婚して三人で暮らしたいと思っている」

 光太を見つめる彼の目を優しく、愛情が溢れている。そんな顔をされると、光太が生まれた頃からを見せてあげられなかったことが申し訳なくなってきた。

「柴崎さんはよくても、ご両親や周囲はどう思うか……」

 再会してから、彼のことをずっと突っぱねてきた。それがこんなふうに聞き返してしまうのは、気持ちが彼に傾いているからにほかならない。

「アメリカに渡る前から、悠里のことは話してあったんだ。結婚を考えている人がいると」

 あの時点ですでに結婚を意識していたなんて、まったく気づいていなかった。

「反対はいっさいしていない。父は雄大さんとつながりがあって、彼の人柄に惚れ込んでいたくらいだ。反対どころか、むしろ歓迎している」

 立場のある人から、父を評価してもらえることがうれしい。
 けれどやっぱり私は父のおまけかもしれないと、少しだけ卑屈な考えが過った。
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