すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「悠里」

 彼に呼ばれてハッとする。わずかに顔をしかめていたのは、気づかれてしまったかもしれない。

「俺は雄大さんの娘だから君を好きになったんじゃないよ」

 不安を見抜かれていたことに驚いて、目を見開く。そんな私を見つめたまま、彼はいっさい視線を逸らさない。

「雄大さんの存在は、きっかけのひとつにすぎない。悠里と一緒に過ごす時間が増えて、雄大さんに対する献身的な姿とか、なんでもひとりでがんばろうとする健気さとか。そういう芯の強い悠里に惹かれたんだ」

 彼の言葉に呆然とする。

「もちろん。光太のことも愛しく思っている」

 遅れて理解すると、涙がこぼれてきた。

「私で、いいの?」

 心のどこかで、父ありきの関係だと思っていた。父への恩があるから、彼は私によくしてくれるだけ。だから当時は、「好き」も「愛してる」も言われないのだとふとした瞬間に切なくなっていた。

「悠里じゃないとだめなんだ」

「あなたの足を引っぱることにならない?」

 自分にもっと自信を持てるように、マイナス思考を一つひとつ潰していく。

 もとは小さな会社の社長の娘とはいえ、今は追い出されたも同然の身。それに、私自身なにか秀でているものがあるわけでもない。

「立場とか身分とか、そんなもの関係ない。それに、ふたりの疑惑はこれから晴らしにいくんだろ?」

「うん」

 わずかにもブレない柴崎さんの態度が、私を後押ししてくれる。

「ここでの生活とか仕事のこととか、いろいろと考えないといけないけれど」

 叔母は私の自由だと言ってくれるが、本当にそれでいいのだろうか。

「私も、あなたと一緒にいたい。その……私も柴崎さんが、好きだから」

「悠里」

 想いを告げた瞬間。再び近づいた柴崎さんが私を抱きしめる。

「ありがとう、悠里」

 彼の温もりに、心が満たされていく。
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