すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 いよいよ帰国する日になり、空港へは叔母とセルジオが見送りに来てくれた。

『光太、しばらくのお別れだ』

 セルジオが光太の頬に口づける。

「ノンン!」

 お返しにと、光太も彼に返す。

「悠里ちゃん。困ったことがあったら、私たちにも連絡するのよ。それから、体調に気をつけてね」

「ありがとう」

「いい? 負けちゃだめよ」

 砕けた雰囲気で私を鼓舞すると、叔母はセルジオと代わって光太とも別れを惜しんだ。

「悠里」

 声をかけられて振り返ると、パイロットの制服を着た拓真さんがこちらに近づいてくるところだった。その背後には、もうひとりのパイロットやCAがそろっている。

 彼からは登場する便を伝えられ、迎えに行けないのは申し訳ないが空港で会おうと言われていた。
 なかなか姿を現さないことを気にし始めていたところだったがと、その素敵すぎる制服姿に目を瞬かせた。

「拓真さん? もしかして、私たちが乗る飛行機は……」

「そう。俺が機長を務めるよ」

 彼の滞在中に、日本からOAJの第一便がこの空港に到着していたのだという。今日のフライトが、ベネチア発の初めての便になるようだ。

「素敵じゃない!」

 話を聞いていた叔母が、はしゃいだ声をあげる。

 私が驚いている間に、拓真さんは叔母とセルジオに挨拶をする。それから光太を腕に抱き、お互いに頬へのキスを贈り合った。

「雄大さんとは、俺の操縦する機体に乗ってもらう約束をしていたのに果たせずじまいだった」

 それはもしかして、以前は教えてくれなかった父との約束だろうか。

「悠里と光太を乗せられるのなら、彼も喜んでくれるに違いない」

 目頭が熱くなる。私を慰めるように、拓真さんがぽんぽんと頭に手を乗せた。
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