すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました

もう二度と間違えない SIDE 拓真

『操縦席よりご案内申し上げます。機長の柴崎です。本日は、オーシャン・エアライン・ジャパンをご利用いただき、誠にありがとうございます。』

 自動操縦に切り替えたタイミングで、機内アナウンスを入れる。そうしながら、頭の片隅で光太は怖がらずに過ごせているだろうかと気になっていた。

『――どうぞ、快適にお過ごしください』

 悠里はなにか、困っていないだろうか。ふたりで楽しく過ごせているといいがと考えていたところ、隣から向けられる不躾視線に気づいた。

「どうかしたか?」

「いや、珍しいなと思いまして」

「なにが?」

 副機長を務める谷川(たにがわ)は、たしか俺より五歳下の明るい男だ。
 一緒に組む人間は当日にならないとわからない上に、初めての相手が多い。それが彼とは縁があるのか、これで三度目になる。

 役員も務めているという俺の立場は社内でも知られており、媚びを売るか遠巻きにされることが多い。仕方がないのもわかっているが、それを残念に思っていた。

 しかしこの谷川は、いい意味で遠慮がない。もちろん礼儀知らずではないが、俺に臆せず話しかけてくれる関係はなかなか心地いい。

「さっきのあれですよ。柴崎さんがあんなふうに女性と親しげにする姿は、初めて見ました」

 興味津々な目を向けられて苦笑する。

「柴崎さんってモテるのに、どんな美人に声をかけられてもまったくなびかないじゃないですか」

「あたりまえだろ。中身をなにも知らない相手だぞ。見た目だけでなびくわけがない」

「うわっ。発言までイケメンすぎ」

 その反応はなんだと、思わず苦笑した。

「自分の時間を削ってまで親しくしたいと思える相手がいなかっただけだ」

「さっきの女性、かわいらしい人でしたね。どういう関係なんですか?」

 ズバリ尋ねられても、悪い気はしない。

「近々、俺の妻になる予定の女性だ」

「へ?」

 驚いたのか、気の抜けた反応が返ってくる。さっきの口ぶりからして、恋人くらいに察していただろうに。

「子どもを連れていましたよね?」

「俺の息子だよ。いろいろと事情があるんだ。まだ内々の話だから、公にはしないでくれ」

 どういうことかと混乱する谷川をよそに、これまでのことを振り返っていた。

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