すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 一緒に過ごす時間が増えていくほど、気持ちが加速する。うれしいことに、彼女も少なからず自分を慕ってくれているのは伝わってきた。

 久しぶりの胸の高鳴りに舞い上がっていたなど、いい大人が恥ずかしい。
 悠里が俺を拒まないことに気をよくして、気持ちを伝え忘れたまま彼女を抱いてしまった。悠里がいつまでも『柴崎さん』と他人行儀な呼び方を続けていることにも気づかず。

 言い訳にもならないが、その直後に発覚したトラブルに追われて、彼女へのフォローが十分にできなかった。

 連絡を受けてすぐに父の執務室へ行くと、渋い顔で迎え入れられる。

「常務がやってくれた」

 常務を務めるのは俺の叔父だ。横柄な人で、自分も父も常に手を焼いている。

 少し前には、『下っ端の弱小企業は、うちがどんどん買収していくべきだ』などと発言していた。
 川島金属機器のように何度か経営難に見舞われた会社を保護し、技術を守っていくともっともらしいことを言っていたが。その本音は、単にうちの会社の勢力を拡大させたいだけ。そこで働く人のことなど、微塵も考えもしない。

 おそらく、そういった会社を束ねるポストなどをエサに、自分に取り入る人間をつくっていきたいのだろう。

「アメリカの提携先だが……」

 聞けば担当者に押しのけて、契約更新の場で叔父がめちゃくちゃな条件を提示したらしい。手柄を上げるつもりのようだが、相手方はカンカンに怒ってしまい、手が付けられない状況だという。

「悪いが、拓真。お前が渡米して、話を納めてきてほしい」

 つまりそれは、後継ぎとして認められるほどの業績を残してこいと言っているのだろうと察する。

「こうなった以上、ある程度あちらの希望を受け入れざるをえない。だが、それに勝る企業と提携をすることを頭に入れてもかまわない」

 縁を切ってもかまわないと示唆される。それほどまでに、叔父の失態は影響が大きいのだろう。
 そして勝る企業とは、以前から俺が密かに検討して父に相談していた案件のことを言っている。
 
叔父のやらかしに頭が痛くなる。が、これもチャンスだと思って気持ちを切り替えた。
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