すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 忙しくなるだろう。相当タフな交渉になるはずで、この件にかかりきりになるのは目に見えていた。

 ここから悠里と仲を深めていきたかったが、仕方がない。
 結婚を前提にと、あらためて伝えるつもりだった。けれど言ったそばから長く遠距離になり、しかも思うように連絡を取れなくなるなど無責任だ。せめてもと待っていてほしいとだけ伝えたが、もどかしくなる。

 忙しくなるのは本当だが、彼女と頻繁に連絡を取ってしまえば仕事に身が入らなくなるってしまいそうだ。ここはしばらくの我慢だと、断腸の思いでアメリカへと向かった。

 向こうでは相手方の社長令嬢に気に入られてしまうという余計な事態を招きつつ、水面下で進めていた別の相手との交渉は上手く言っていた。それだけに、こちらは謝罪をしつつも強気に出ることができた。

 結局、縁が切れて損失を負うのは向こうも同じなのだ。迷惑をかけたことに対する補填のような条件を示しつつ、概ね許容範囲の内容でまとめられたのは幸運だった。

 頭の片隅にはずっと悠里の存在があったが、パイロットとしての役割をもこなしていたために余裕がなかった。
 彼女は待ってくれているはず。そんな独りよがりな考えが、悠里を失うという事態を招いてしまう。

 そもそも自分が告白すらしていないと気づいたのは、日本にいる父から電話で雄大さんの訃報を知らされた後だった。

『手術が成功したばかりだったはずなのに……』

 にわかには信じられない。最後に彼と交わした言葉どんなものだったか。また彼に会えることを当たり前に感じていたから、覚えてすらいない。

『そうなんだがな。なんでも、あっという間のことだったらしい。知らせを受けたのは、葬儀が終わってからだ。しかも、うちの取引先の社長とのなにげない立ち話で聞かされた』

 どこか不服そうに言う父に、首をかしげる。責任感の強い悠里がいるのに、そんな状況になるだろうかと。
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