すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 その結果、ここ数年の彼がずいぶん派手な生活をしていたことがわかった。

 車は高級車に乗り換え、家族を連れて海外旅行に何度か行っている。
 羽振りがよくなった理由は、会社の業績が一気によくなったと言っていたようだ。しかしここ数年の川島電気機器は平均的な黒字業績が続いており、取り立てて大幅な収益の増加があった様子はない。

 川下哲二の子どもは三人いる。そのうちの末の娘は昨年、私立の音大に入学した。なにかと金がかかっているようだが、その費用はどこから捻出しているのか。さらに上の姉も、別の私立大学に通っているという。

 長男はすでに独立して他県で働いているようで、あの男の家庭で収入を得ているのは川島哲二のみ。彼の年収から考えるに、ふたり分の学費を賄うのは難しいように思われる。

「こんなの、犯人は明確じゃないか」

 状況証拠しかないとはいえ、疑うには十分だ。

 雄大さんが亡くなって以降、それまで目立った様子のなかった川島哲二が急に動き始めている。どうやら副社長という立場に不満があったようで、いつかは雄大さんにとって代わろうと目論んでいたようだ。

 もともと従業員との交流は薄く、自分に靡くものだけを相手にしていたという。彼が社長である以上は周囲も逆らえず、雄大さんが築いてきたアットホームな社風は一転してギスギスしだした。

「だから悠里は、ここにいられなくなったのか」

 追い出されるようにして姿を消しただろう彼女を思うと、胸が苦しくなる。

 彼女が叔父の用意した古いアパートでしばらく過ごしていたところまではわかったが、それ以降の足取りが途絶えてしまう。簡単に追えない事実に、身近に頼れる人物がいなかったのだと浮き彫りになるようだ。
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