すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「謝罪はいらないよ」

「ありがとう」

 残っていた具材で、光太が掴みやすいサイズのサンドウィッチを用意する。

「光太、おはよう」

「おおよ、ノンン!」

「違うよ。パパだ。パ、パ」

 背後から、ふたりの会話が聞こえてくる。

 いつかセルジオがそうしていたように、拓真さんがゆっくりと光太に言い聞かせている様子をチラッと見た。
 彼の顔の高さに抱き上げられた光太が、当然のように頬に口づける。

 微笑ましい光景でこの習慣はなくしたくないけれど、これから日本で暮らしていくのなら、頬への口づけは家族だけだと光太に教えるべきかもしれない。

 準備が整い、テーブルにお皿を並べる。
 子ども用の椅子はないが、光太は拓真さんが膝に抱いてくれている。

「さあ、食べよう。光太、いただきます」

 イタリアで、光太には食事の前に手を合わせることを習慣づけていた。
 サンドウィッチを前にした光太は、お腹が空いていたのか待ちきれないようだ。小さな両手をパッと合わせて、こくりと頭を下げる。それからすぐに手を伸ばした。

「光太、ゆっくり食べるんだよ」

 そんな光太を、拓真さんが目を細めて見つめる。そうしながら、食べやすいようにお皿の位置を調節したり飲み物を渡したりする。

 一緒にいたのはまだわずかだというのに、もうすっかり親子に見えるのは私の欲目だろうか。
 もともと人懐っこい光太は、拓真さんにすぐに慣れた。私が目の前にいるにもかかわらず拓真さんの膝にいるのは、彼を信頼しているからだろう。
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