すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「そうだ、拓真さん」

 光太を微笑ましく見つめていた拓真さんの視線が、私へ向く。

「私が会社を辞める前から、数カ月後に退職が決まっていた男性従業員がいたはず」

「本当か?」

小林(こばやし)さんはたしか、まだお子さんが小さくて喘息を患っていたの。だから、空気の綺麗な田舎へ引っ越すって。奥様のご実家を頼って、長野の方へ行くって話していたはず。その、有力な手掛かりになるかはわからないけれど」

 少なくとも私がいなくなった後の様子も知っているだろうし、退職していれば叔父の圧力も脅しも関係ない。なにか、話を聞けるかもしれない。

「悠里、その人物について詳しく教えてくれ」

 奥様のご実家は農園を営んでおり、退職後はそちらを手伝い、いずれ継ぐつもりだと話していた。
 そこまでわかっていれば、見つけるのはすぐだった。

 拓真さんは、翌日には小林さんにコンタクトを取ることに成功していた。向こうは最初、かなり驚いていたようだ。その後は拒絶するような雰囲気だったという。なにかを知っているのか、それとも自身に後ろめたいところがあるのか。

 そこは拓真さんが立場を明かし、さらに私も関わっていると告げると、彼は観念したように明日の夜に連絡をすると言ってくれた。

 仕事を終えた拓真さんが帰宅し、小林さんとビデオ電話をつなぐ。

『悠里さん。本当に申し訳ありませんでした』

 三十代半ばの彼は、社内では比較的私と歳が近い方だった。それもあり、当時はもう少し砕けた雰囲気で接してくれていたはず。

 けれど今は悲痛な表情を浮かべ、私の姿を認めると即座に頭を下げた。

「小林さん、顔を上げてください」

『僕は、あれほど社長の世話になったというのに……』

「雄大さんが亡くなった前後になにがあったか、話してほしい」

 拓真さんがそう告げると、小林さんはぽつりぽつりと語り始めた。


< 163 / 183 >

この作品をシェア

pagetop