すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
 そのまま、彼の運転で川島金属機器へ向かった。

 窓の外に見慣れた光景が広がり始めると、懐かしいといいより胸が苦しくなる。元気な父がいて、陽気な従業員らに囲まれて……そんな穏やかな日常は、一瞬で過ぎ去ってしまった。

 言葉にできな複雑な感情に胸がざわめき、胸もとのネックレスに触れる。これは拓真さんが渡米する前に、クリスマスだからとプレゼントしてくれたものだ。

 外をじっと見つめていると、赤信号で車を止めた拓真さんが私の手を取って両手で包み込む。

「大丈夫だ、悠里」

 彼がそう言うのだから間違いないと確信しながら、小さく息を吐き出した。

「うん。絶対に負けない」

 私も父も、悪いことなんてなにもしていない。だから、胸を張っていればいい。
 拓真さんに勇気づけられて、暗い感情はいつの間にか払しょくされていた。

 叔父を警戒させないように、連絡は彼の名前を出さずに私から入れている。それでも邪険にされるかと思いきや、予想に反して叔父は自ら日時を指定してきた。

 その振る舞いになにか企んでいるかもしれないと警戒しつつ、けれど今回の訪問で絶対にけりをつける強い意志で臨む。

 川島金属機器の駐車場に車を止める。外から見る限り、会社はあの頃と変わらないように思えた。

 ぐっと力を込めた手を、隣に立った拓真さんが握ってくれる。

「行こうか」

 ひとつうなずき、ふたり並んで歩きだした。
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