すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「実はな、横山(よこやま)工業の次期社長が、君との結婚を望んでいるんだ」

「なっ」

 二度と会社に関わるなと、私を追い出したのは叔父だ。それにもかかわらず縁談を持ってくるなどありえないし、その意図も不明だ。

「横山と縁づけば、うちも危機を乗り越えられて安泰だ。悠里ちゃんだって、そろそろ結婚を考えてもおかしくない歳だろ? ほら、兄さんもきっと天国で心配している」

 この人だけには、父のことを言ってほしくない。それに、危機とはどういうことか。

「雄大さんがご存命の頃、川島金属機器は安定した黒字経営を続けていたはずだが?」

「部外者には関係ない。会社の経営はな、複雑なんだよ。いつ何時、なにが起こるかわからない」

 拓真さんを若造だと馬鹿にする口ぶりに、怒りが湧く。

「まあ、そうでしょうね。必要な金が用意できなかったり、度重なる非礼で取引先の怒りを買ったり」

 なにか示唆するような拓真さんの様子に、叔父が眉間にしわを寄せた。

「それはどいう意味かね。君に口を出されるいわれはないのだが」

「あなたに知らせる必要はありませんが、念のため明かしておきましょう。私と悠里は、婚約をしているんですよ」

「なっ、なんだと」

「幸せなことに、かわいい息子にも恵まれて」

 それは本当かと、叔父がギロリと私を睨みつけてくる。
 私の手をそっと握りながら、拓真さんが続ける。

「あなたが追い出した姪が、どこでなにをしていようが関係ないじゃないですか。まして、縁談を持ってくるなど持ってのほか」

「本当か、悠里」

 ここでうろたえてはいけないと、必死で平静を装った。
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