すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「息子も生まれて守るものが増えていく中、会社を首にされるなど恐怖でしかなかった。誰かに言わなくてはと思う半面、黙っていれば大丈夫だと自分の弱さから流されてしまった」

 とはいえ小林さんは、口止め料は受け取りを拒否し続けてきた。

 しかし一度だけ叔父に食事へ連れていかれ、解放される段階になって横領したお金で支払ったと告げられた。

『これで君も、立派な共犯者だ』

 そんなはずがない。だまし討ちのようなやり方に怒り、かかった金額を返そうとしたが受け取ってもらえず。それどころか帰宅して鞄を開けると、いつのまにか封筒に入れられたお金がはいっていたという。

 そのせいで、小林さんは誰にも相談できずにいた。結局、彼は息子さんの喘息がきっかけとなって自ら会社を去る選択をしている。退職の際には、手を付けずに保管していたお金と食事にかかった代金を、叔父に押し付けるように返した。

「なに馬鹿なことを言うか。証拠を出してみろ」

 強気に言った叔父に、小林さんが半歩後ろの弁護士に合図を送る。

「誰だ、お前は」

「この件で依頼されている、弁護士の矢神(やがみ)と申します」

 今回の件を知った拓真さんのお義父様が、彼の会社の顧問弁護士に依頼をしてくれた。私や拓真さんを若造だと侮っていた叔父だが、同年代の男性の登場に勢いはわずかに削がれている。

 矢神さんが、鞄から数枚の用紙を取り出す。そこには、叔父が頑なに隠してきた帳簿や通帳の写真が印刷されていた。

「知っていながら黙っている罪悪感に潰されそうで、せめてもと画像を残しておいたんです」

 小林さんは、経理の仕事にも関わっていた。それが叔父の不正を知るきっかけになったと同時に、証拠を集められる立場でもあった。

 口座の名義は前に拓真さんが指摘した通り、父ではなく叔父の名前になっている。そして、帳簿と通帳に記されたお金の動きは、いくつか一致していた。
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