すべてを失ったはずが、一途なパイロットに秘密のベビーごと底なしの愛で囲い込まれました
「進路に迷ったときに、雄大さんに会いに行った。幼少期以来の訪問だったが、彼はすぐに思い出して俺を歓迎してくれたよ。そこからたまに飲みに行く関係が続いている」

「初めて知りました。父と親しくしていただき、ありがとうございます」

 聞けば彼は三十四歳なのだという。ふたりの再会は、私がまだ学生の頃だ。父はたまに飲みに出かけていたが、その相手のひとりが柴崎さんだったのだろう。

「なんか、雄大さの娘さんにそんな畏まった物言いをされるのも変な感じだ。俺にとって雄大さんは恩人でもあるんだ。年齢も立場も関係ない気安い関係を、気に入ってる。悠里さんも気楽に接してくれるとうれしい」

 もうしばらく父の話で盛り上がった後、「そうだ」と柴崎さんがスマートフォンを取りだした。

「連絡先を交換してもいいかな? 雄大さんの様子とか退院の日とか、教えられる範囲で知らせてくれるとありがたい」

「もちろん、大丈夫ですよ」

 連絡先を交換して、席を立つ。驚いたことに、支払は私がお手洗いに立った間に済まされていた。

「本来なら、助けてもらったお礼に私が払うべきところなのに……」

「女性におごってもらったなんて、格好がつかないよ」

 冗談めかしてそう言ったのは、私に気を使わせないためだろう。

「それじゃあ、ここは甘えさせてもらいます。ごちそうさまでした」

「どういたしまして。帰りは電車で?」

「はい」

 自宅はどの辺りかと尋ねられて答える。父と親しくしてきたとはいえ会うのは外ばかりで、家までは把握していなかったという。

「それなら、俺が送っていくよ」

「え?」

「病院までは車で来ている。うちからそれほど遠くないし、遠慮しないで」

 戸惑っている間に柴崎さんが歩き始めてしまうから、慌てて後を追った。
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